ちて兼次の芋畑へも散らばつて居る。青いよわ/\した小麥が生え出して居る。小麥は芋の間に二畝《ふたうね》づつ蒔かれてある。芋の莖はぐつたりと茹でたやうである。考へて見ると芋は恐ろしい強情なものであつた。秋の風が日となく夜となく根氣よくいひ寄つてもどうしても厭だ/\といひ通して首を横にばかり振つて居た。秋風が腹を立てゝ其廣い葉を吹つ裂いてもたうとういふことは聽かなかつた。それが秋の末に一夜そつと眞白な霜が天からおりたら理窟はなしにぐつたりと靡いてしまつたのである。おすがは芋の莖を菜刀でもとから切つて先へ出る。菜刀といふのは庖丁のことである。後から兼次が鍬の先で芋の株を掘り起す。ぴか/\と光る鍬の先をざくつと芋の株へ斜に突き立てゝぐつと鍬を持ちあげると大きな土の塊がふわりと浮きる。鍬をそつと拔いて先の株へ移る。小麥へ障らぬやうに極めて丁寧に掘つてはさきへ/\行く。おすがは莖を切り畢ると後へもどつて掘つてある大きな土の塊を兩手で二尺計り揚げてどさりと打ちつける。こまかな土がほぐれてこゞつた子芋の塊から白い毛のやうな根がぞろつとあらはれる。それから芋と芋とを兩手の平でぶり/\とはがしてやがて俵を
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