塗つたやうである。そこにもこゝにも百姓が小さく動いて居る。麥をうなつて居るものもあるが大抵は芋掘りの人々である。四五人の手で芋を掘つて居る畑の縁には馬が茶の木に繋いであつて俵が轉がつて居る。此俵があれば遠くからでも芋掘りの人々であることが解る。馬は退屈まぎれに茶の木をむしることがある。其時一人が駈けて來て轡をがちんと一つ極《き》めつけて叱り飛ばせば復たおとなしくなつてぱさり/\と尾を動かして居るのである。各自の手もとは忙しい。然し岡は只長閑なさまである。日は稍傾いた。忽然筑波山の絶頂から眩い光がきら/\と射して來た。毎日同一の時刻に此の光は此岡へ強くヒしかけて來る。百姓の或者は筑波山で火を燃やすのだらうなどといつて居る。然しそれは觀測所のガラス窓が日光を反射するのである。岡の畑に變化が起つたとすれば數時間に只此丈である。ガラス窓の反射はやがて消えてしまつた。芋掘りの人々は勿論此の光は知らなかつた。兩毛の山々がぼんやりした日は西風が吹かないので隨て暖かい。暖かい日は土いぢりの芋掘りには此の上もない日和である。兼次とおすがも街道へおり口の小さな畑で芋を掘つて居る。隣づかりの桑畑は葉が大凡落
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