る。兼次が酷い目に逢つたのも傭人にこんな心持があつたからである。おすがも翌日暇が出た。遉にしほ/\として風呂敷包を抱へて歸つて來た。二人の間に就いては百方策が盡きた。遂に村の旦那へ持つて行くことに成つた。旦那といふのは祖先の餘慶によつて村の百姓をば呼び捨てにするだけの家柄である。大抵の出來事が愈埓明かなくなると屹度旦那の許で裁判を乞ふのが例になつて居る。兼次のことでは旦那も髯をこきおろしながら考へたがやつぱり困つた。卵屋の頑固は叩いて見なくても分つて居る。一先づ本人共の意見を聞かうと最初におすがを呼んだ。おすがはもう埓もない。離れたくないのは山々だけれど離れろといへばそれも素直にいふことを聽くのである。尤も旦那の家へ呼ばれて噺をされるといふことは生來嘗てないことで只恐れてどうもかうもいふことは出來ないのだが眞實死ぬの生きるのといふ程の決心はないのである。おすがはまだ十七にしか成らぬ。次には兼次を呼んだ。卵屋が又變な料簡を起しても困るからとお内儀《かみ》さんの機轉でお安を使つて或日の晝餉の仕事休みに裏庭へ連れ込んだ。お安はおすがと茶摘をして兼次を騷がしたことのある女である。お内儀さんは篤
前へ 次へ
全50ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング