は彼に丈は容易なことであつた。
五
おすがの家では又村の親族が聚つて智惠を絞つた。どうしても此は二人の間を離れさせるのが專一である。それにはおすがを隱すことだと博勞の伊作の考で村の親族の一人が引きとつた。唯の夜遊びでさへ村中押し歩くのだから兼次がおすがを嗅き出すのは牡犬が牝犬を搜すよりも速かであつた。おすがはそれから見習奉公といふ名義で隣村の大盡へ預けられた。然し兼次が其大盡の邸内へ忍び込んだのはおすがゞ行つた其日の晩であつた。其晩兼次はひどい目に逢つた。傭人等が豫め兼次の來ることを知つて主人へ窃に告げたのである。嚴重な主人は傭人に命じて庭の隅へ追ひつめさして捉へた。兼次は地べたへ手をついて謝罪つた。門の外へつき出されてほう/\の態で歸つて來た。娘と千菜物《せんざいもの》は其村の若い衆のものだといふ諺が古くから村には傳つて居る。維新の頃までは若しも他村の男が通《かよ》つてゞも來れば其村の若い衆の繩張を冐したことに成るので散々に叩きのめして其上に和談の酒を買はせたものだといふ。それ程のことはもうないが今でも一つは嫉妬心から一つは惡戲半分から追ひまはすことは往々であ
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