あだ自由にされねえ積だから」
「そんなに怒つて騷がねえたつておすがことせえ貰へば怨みもつらみもあんめえ。あつちのお袋だつておすがも可愛いし兼次も可愛いしなんだからこつちせえ譯がわかれば仲よく暮せるつちいもんぢやねえか」
「檢査濟まねえうちはどうしたつて貰あわえから駄目だよ」
四つ又もどうせ駄目とは思つてもいふだけのことは云つて見ようといふ譯なんだが然しかう出ては槍が降つても迚ても駄目だ。四つ又もそれは知つて居る。
兼次の家の庭には垣根について栗の大木がある。松と松との間にあるので枝が一方庭の方へばかり延び出して垂れ下つて居る。房の如く長い花が一杯に白く咲いて居る。白い毛の生えた大きな毛蟲が葉をくつて枝の先にくつゝいて居る。栗毛蟲は構はずに置けばみんな葉を骨ばかりにしてしまふ。兼次の兄の太一が毎日長い竹竿で其栗毛蟲を落して居る。栗毛蟲は強くしがみついて容易に離れないのを太一は氣長に叩いて落ちたのを足で踏み潰す。太一は此を近來の役目のやうにして飽きもせずにやつて居る。兼次には男の兄弟が三人もあつたのだ。一人は十になるかならぬで鬼怒川で溺死をした。其次は此の太一である。此も十位の頃から癲
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