癇になつた。病氣が屡起つてから彼は只ぼんやりとしてしまつた。病氣の起る間が遠ざかれば時としては木の根を掘りに行くこともあつたり一日かゝつて米の一臼位は舂くこともあるが、何處でぶつ倒れるか分らないので殊にお袋の心配は止む時がない。彼は人さへ見ればにや/\と笑つて居る。彼は不具な體でありながら年頃來てからは草刈の娘などに戲談をいふこともあるやうに成つた。娘等は往復共にいゝ慰み物にして太一にからかふ。此を見てつらいといつて涙をながすのはお袋である。こんな不幸な出來事から家の相續をする者は兼次より外には無くなつたのである。其大切な兼次が浮かれ出したのだから非常な打撃であるといはねばならぬ。それがおすがのお袋が指金で此間の晩も垣根の所にうろついて居たのはお袋がお安といふ女を連れて來て居たのだと思つて居るので親爺はもう心外で堪らぬのである。太一は五六日前に隣の五右衞門風呂で病氣が起つて踏板を踏み外して足のうらへ五十錢銀貨位の火膨れが出來たとかで變な歩きやうをしながら今日も落花と毛蟲の糞との散らばつた庭に立つて栗毛蟲を叩いて居る。彼はやがて其竹竿を入口の廂へ立て掛けてぼんやりと立つて此の掛合の後半を
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