商ひをしたものがあつたとかで今に至るまで村では卵屋と呼んで居る。
「代《しろ》掻《か》いたのか」
 四つ又は厩の所へ行つて問ひかけた。親爺は暇があればかうして厩へ行つて馬の食ひ振を見て居るのである。
「やつと今をへた處だ」
 親爺は簡單にかういつて井戸端へ行つた。股引の泥をざつと洗つて家にはひる。四つ又と共に上り框《かまち》へ腰をかける。
「どうした兼が居なくちや仕事が巾《はば》ツたかんべ」
「そんでもどうやらかうやら代だけは出來た」
「忙しい所で濟まねえが今日はおれも頼まれたから來たんだ、惡く思つちや仕やうねえぞ、斷つて置くからな。どうしたもんだいまあ、おすがこと貰あも出來ねえ、兼次が足も自分の持物ぢやねえから止める譯にや行かねえつて伊作男げ斷つたつちいんだがそれも隨分酷え噺ぢやえねか。それに二人はどうしたつて切れねえ縁だ困つたものだぞありやあ。遁げたものはそりや手分けして搜せばどこに隱れたつて分るにや極つて居るやうなものゝ連れて來た所でおめえら方がちやんと極つてなくつちや女の方の身分になつても餘り慰みものにされたやうで世間へ顏向も出來ねえな。何もそんなに頑張らねえで一層のことおすが
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