がのそり/\と動いて居る。直ちに鉄砲を取り直して火蓋を切ると只一発で転がつた。斃れたのは三十余貫の熊であつた。野獣を打つたのはそれが始めてゞあつたといふのである。十三才の少年には長い火縄銃は立てたら其身に余つたであらう。其火縄銃を肩にして行く処は其天与の大胆な気性がなかつたとしたならばそれは余りにいた/\しいことでなければならぬ。さう思つて見ると散り乱れた黄色な木の葉を踏んで樹蔭に身を寄せながら熊をすかして見て居る少年の姿が見えるやうである。それを聞いた時自分はすぐにシラクチといふのはどんなものかと聞いた。それは樹に絡つて白い花がさくのだといつた。自分は其後ふと嘗《かつ》て見た白い点の聚りのやうな花を思ひ出した。さうして霧の中に白い柱の如く立つて居た其花と同一ではないかと思つた。然しそれは鶴爺さんのいふシラクチといふものであるかないか、又其地方でいふシラクチといふものが植物学者によつて知られて居る名であるかないか、自分はちつとも知る所がない。例令《たとい》自分の聯想《れんそう》が誤つて居たとしても自分は霧の中の白い柱のやうな花と其シラクチを分離せしめたくはない。自分は鶴爺さんの噺から到
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