く其事実を質して見た。彼は幾らもそんなことは有つたのだと別段取り合ひもせぬといふやうな態度である。彼は時々ぎろりとした眼を薄闇い灯にきらめかす。然し彼の声は稚い且優しい声である。眼を閉ぢて其声のみを聞いたのでは身躰鉄の如き鶴爺さんを想像することは出来ぬ。彼は旧藩主に死なれなければ今日こんな難渋はしないであつたと自身の不遇を語る。それから又税金が嵩むので、自分は既に銃を捨てゝ其業を子に譲つたといつた。座敷に吊つてあつた穢い蚊帳の中から一人の壮夫が出て来た。それは彼の子であつた。遠来の客なる自分のために其壮夫も亦《また》猟の噺をした。其年の春一つ処で猿十三頭を打つたといつた。それが一日のうち僅小な時間の獲物であつたといふに至つて尠《すくな》からず自分を驚かした。然かし今ではもう野獣の数が減少して畢《おわ》つて熊でも猪でも鹿でも殆ど其足跡を見なくなつた。猿の如きも犬の至り能《あた》はぬ崖を求めて棲息して居るに過ぎないのだといつた。それがどこには幾つと鶴爺さんは数へあげる。彼は又以前は此の野獣がどれ程居つたものであつたか殆ど積りも出来ない。随《したが》つて自分の打つたのもどれ程であつたかを数へ
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