枕を並べて寢についたが、明日の抗戰がどうなるかと思ひめぐらして眠れませんでした。土木の工夫や役人とわれわれとの間に亂鬪が展開されるのは必然と見られたのです。堤防の上に血の雨を降らすであらうことは想像されるが、見ぐるしい終局にさせたくない、それが私の心配でした。實は怯懦な私自身のことが心配なのです。この時も田中翁は寢るとすぐ高いびきです。翌朝眼を覺ますと、『風を引かないやうに氣をつけやんせう』。四月といふに寒い朝だつたのです。
 この日、谷中村に同行した青年達は十八名ばかりでした。谷中の住民約三十名と勢揃ひして假築堤防上に赴いた時には、しよぼしよぼと春雨が降り始めました。
 しかるに豫期した幽靈は出て來ませんでした。わたしどもは拍子ぬけの體でありましたが、しかし、かうした機會を無益に過してはならない、わたしは皮切りに激勵の演説を試みました。青年諸君も熱辯を振ひました。雨中の屋外集會は、ただそのままで既に悲壯の極みでありました。
 この日は何の事もなく歸京することができました。しかし、わたしは、自分の心持をかへり見て、いささか不安でありました。若し、あの堤防上に亂鬪が起つたとして自分は果し
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