。
「ホホオ! ホホオ!」
と、私は驚異の眼を見張りながら叫んだ。其れを見た夫人は又叫んだ。
「|立派に出来ました《ビヤン・レユツシー》、大成効《グラン・シユクセ》!」
私は不思議な程に感じながら、
「|私は知らなかつた《ジユ・ヌ・サベエパ》! 私は知らなかつた!」
と言ふと、マダムはさへぎつて、
「何を?」
「其れが地の中に出来ることをです」
コウ私が答へると、マダムも女中も腹を抱へて笑ひ崩れた。私は少年の頃、一度や二度は馬鈴薯の耕作を見たこともあつたろうし、能く考へて見れば、馬鈴薯が地中に成熟する位のことは脳髄のドコかに知つて居たに相違無いが、当時はそれを思ひ出せなかつたのだ。マダムは笑から漸く脱して、そして説明する様に言ふた。
「地の中に出来るからこそ、ポム・ド・テエル(地中の林檎)と言ふのぢやありませんか」
此一語に私はスツかり感服させられて、
「|成る程《オン・ネツフエ》!」
の一語を僅かに洩すのみであつた。
◇
私は其翌年の初夏に、此戒厳地を去つて、巴里から西南方に四百キロメートルも隔つたドルドオニ河の辺に移住することになつた。風光明媚なドルド
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