になると枯れた茎も腐つて了つた。景気ばかり立派だつたが、是は失敗だつた、と私は思つた。ケレども曽て入獄の際、一年有余、馬鈴薯の御馳走にばかりなつた結果として、之を喰ふことが嫌ひになつた私は、左程残念にも思はなかつた。それに革命は来そうにもないし、馬鈴薯なんぞは入らない、と観念した。
 其時分、巴里から、家主の妻君が遊びに来た。家の掃除になど来る女中も来て、一しよに庭園や畠を見廻はつた。馬鈴薯畑の処を通りながら、女中は私にコウ言ふた。
「石川様《モシユ・イシカワ》、馬鈴薯《ポム・ド・テエル》を取入れなくては、イケませんよ」
 私は、此女め、己を嘲弄するのだな、有りもしない馬鈴薯を収穫することが出来やうか、と少々腹立たしく感じた。
「オヽ、ポム・ド・テエル! 皆無です! 皆無です!」
と、頗る神経立つて私は答へた。
「|皆無です《トウー・テ・ペルデユ》? 貴方は掘つて見たのですか?」
「ノオヽマダム」
「掘つても見ないでドウして分ります?」
 コウ言ひながら女中は手で以て土を掻いた。そして忽ち、ハチ切れる様に充実した、色沢《いろつや》の生々した、大きなポム・ド・テエルをコロコロと掘り出した
前へ 次へ
全13ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 三四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング