七

 コウした自然の中に、井を掘りて飲み、地を耕やして食う。人間の生活は其れにて充分である。其れが人生の総てである。人間は地と共に生きるの外に、何事をも為し得ぬものである。地の与ふる美の外に、人間は些かの創作をも成し得ぬものである。吾等は地に依りてのみ天を知り、地によりてのみ智慧を得る。地独り吾等の教育者である。地独り真の芸術家である。地を耕すは、即ち地の教育を受くるに外ならぬ。地の養育を受くるに外ならぬ。而して地を耕すは、又、地の芸術に参与することである。然り地を耕すは、即ち吾等自身を耕す所以である。

         八

 社会の進歩、とは、社会と其個人とが、地の恩沢を正しく充分に享受すると言ふことで無くてはならぬ。希臘《ギリシヤ》は地の利を得て勃興した。而して希臘人が其地利を乱用して却て地を離れ地を忘れたる時、頽廃に帰した。強大なる羅馬《ローマ》帝国も、土臭を厭へる貴族や富豪の重量の為に倒潰したのである。ヨリ多くの地をヨリ善く耕すことは吾等の名誉、吾等の幸福である。其れと同時に、自ら耕さざる地面を領有するのは、不名誉にして罪悪である。領土の大を誇る虚栄心は、即ち
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