之河原に、神集ひて……イシコリドメの命に科せて鏡を作らしめ、タマノオヤの命に科せて八尺の勾玉の五百津の御頻麻流の玉を作らしめ云々」とあるは、日本に於ける分業制の最も古き記録と見るべきで、これから段々「家業」といふものが伝はつてゐる。家業とは家に伝はつた職業である。

     ○ 階級的分業

 分業の最初が生存競争の為に起つたといふよりは、寧ろ自我意識の発達に基くと見らるべき徴証は他にもある。そして分業の発端に於ては、それは一種の独占業として又は階級として表はれてゐる。例へば一部落の長老中に特に知力と記憶力との発達したものがあるとする。太古の暦を持たない民衆にとつては呪はしい酷寒の冬の期節、即ちサムソン――サムソンはアラビア語のシユムシと語源を同じくしセミチツク語の太陽といふことである――の健康の最も衰へる時期には民衆の悲哀は極点に達したに相違ないが、その時、智能の優れた長老が、その長い経験と記憶とに基いてやがてサムソンの体力復活の時期、吾々を救ふために暖い春の日を持つて来る時期を予言したとすればどうであらう。或は初夏の「雪しろ水」を予告し、或は二百十日の暴風を予言したとすればどうで
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