私は前掲の諸問題について一々論じて見たいのであるが、それは此小紙面では到底容れられない。已を得ず、それ等に対して自ら解答になるであらうやうに、先づ人間社会に如何にして分業が起り、如何に変遷して来たか、といふ点から説明し、それから分業と社会連帯性との関係に及び、社会の進歩との関係に及び、更に進んで分業の得失を論じ、理想的分業制にまで論歩を進めたいと思ふ。
○ 分業の起源
分業は何故に起つたか? 最も広く行はれてゐる説によると、分業の原因は、人間が絶えず幸福の増加を要求するところのその慾望にあるといふ。併し幸福とは何ぞやといふ問題も可なり不確定な観念を以て成立する。そこで幸福の内容如何は問はず、ただ人間が楽しみ赴くところを幸福と称するといふことにして、さてさうした心理的法則は何れの社会にも行はれてゐるが、分業制は必ずしも一様には進歩しない。勿論、幸福の慾望は分業制生起の一要素にはなるであらうが、それには他の条件が備はらねばならぬ。即ち幸福の慾望が自我意識の覚醒に伴はなければならない。デユルケムは「分業は社会の積量と密度とによつて直ちに変化する。そして若し分業が社会発展の過程
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