の結紐となつたものは刑罰法であり、従てそれを保持するものは絶対的な強権であつた。然るに個人の社会的覚醒が発達し、政治にも産業にも学問にも分化(分業)作用が行はれるにつれて、強権的刑罰法が吾々の日常生活に干渉することは漸く減少し、之に反して協同主義的或は相互主義的法規が益々多く広く吾々の生活を規定するやうになつた。民衆に与へられる自由は漸く拡張せられ、知識の普及とともに、各自が自分を大成するの希望とその世界とが開けた。
 かくて各個人は従来の族党又は藩閥、或は王侯貴族の覊絆を脱して、直接大きな国家的社会に連帯生活を始めた。各個人の分業的職能は国家的社会の有機的(不完全或は部分的ではあるが)生活に直接的連帯を形成する主要素となつた。各個人の自我意識とその自主的行動は同時に全社会の連帯生活と利益を同じくするやうに、社会発展の方針は向けられた。
 然るに、この自我意識に基く分業を全社会と連帯せしむべき流通路は再び法律によつて遮断された。それは所有権の特別的保護即ち資本主義の維持である。かく強権の保護によつて成立せる資本主義的機械産業は一般社会生活と隔離せる、換言すれば社会的連帯生活から遮断した
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