なし、太陽の周囲を廻つて春夏秋冬をなし、禽獣草木、風雨、山河、互に連帯関係を保つて互に自治し、無礙《むげ》自在であつて滞る処が無い。人間同志の生活もかうありたいものではないか。極めて少数の例として生物相食むの事実があるの故も以て、人間が自ら静思熟慮の上之を模倣して全生活の原則とする如きは、誠に浅ましい次第では無いか。蟻の集団が如何に宏大なる共同倉庫を造り、如何に巧妙に冬越しの食物を貯蔵するかを見よ。蜜蜂の活動が春から夏にかけて如何に激しきかを知る者は、直ちに其蜂殿に蓄積せられる蜜の豊かにして甘いことに想ひ到るであらう。彼等が其共同生活の為に一糸乱れず自治的労働にいそしむ様は、実に涙ぐましい程立派なものである。個々の者が自治の精神に生きなければ、真の共同生活は成立しない。此間に威力の干渉が加へられると共同も自治も共に傷けられる。蜂の営舎にも、蟻の村落にも、威権といふものは行はれない。かうして工業と農業とを綜合したる此等小動物社会の生活こそ、哀れにも疲れ果てた吾等人間の苦境を改善すべき好箇の模範では無いか。
 世界は今や生存競争主義の都会文化、商業精神に依つて暗黒になつて居る。自然から善い
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