る。天下悉く商民商村と化した今日、特に農民自治などを叫ぶのは宛も時代錯誤ではないか。
それは、その通り、時代錯誤に相違ない。今日の問題は、農民の自治といふことでは無くて、商を転じて真農と化するにある。然るに、同じく商と称するも、鍬鋤を顧みない純商人と、未だ鍬鋤を棄て得ない商人、即ち現在の農夫とは些か其境遇に差異がある。其心は兎に角として、其境遇が土着して居る吾等農夫は、尚ほ祖先の地を去り難く、一種の覊絆に繋がれて居る。吾等は生存競争、金力万能の風潮に溺るゝことを怖れつゝ、尚ほ吾等を生んだ土地を耕やして、美しい墳墓までも用意しやうと執着して居る。此執着心深き吾等をして、吾等の父母たる天地の恵みを充分に享楽せしめよ。他人の懐と他人の生産との間に介在して自己の利益をのみ貪る我利商人たることを避けて、吾等をして直ちに天地の創造に参与する農産業に没頭せしめよ。是が吾等農民の真の希願である。
四
然らば此希願は如何にして成就し得るか。其第一要件は即ち自治である。自治は万物自然の生活法則で、此法則は人間にも実現されねばならぬ筈である。鳥は飛び、魚は泳ぎ、地球は自転して昼夜を
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