》を鋼《はがね》で張りつめて
意志のない不生産的生きものが
他国のチリンチリン的敗物を
がつがつ食べて得意です。
あなたのきらひな東京が
わたくしもきらひになりました。
仕事が出来たらすぐ山へ帰りませう。
あの清潔なモラルの天地で
も一度新鮮無比なあなたに会ひませう。

[#天から27字下げ]昭和二七・一一
[#改ページ]

  うた六首


ひとむきにむしやぶりつきて為事するわれをさびしと思ふな智恵子

気ちがひといふおどろしき言葉もて人は智恵子をよばむとすなり

いちめんに松の花粉は浜をとび智恵子尾長のともがらとなる

わが為事いのちかたむけて成るきはを智恵子は知りき知りていたみき

この家に智恵子の息吹《いぶき》みちてのこりひとりめつぶる吾《あ》をいねしめず

光太郎智恵子はたぐひなき夢をきづきてむかし此所《ここ》に住みにき
[#改ページ]

  智恵子の半生


 妻智恵子が南品川ゼームス坂病院の十五号室で精神分裂症患者として粟粒《ぞくりゆう》性肺結核で死んでから旬日で満二年になる。私はこの世で智恵子にめぐりあつたため、彼女の純愛によつて清浄にされ、以前の廃頽《はいたい》生活か
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