[#天から27字下げ]昭和二四・一〇
[#改ページ]

  智恵子と遊ぶ

智恵子の所在はa[#「a」は斜体]次元。
a[#「a」は斜体]次元こそ絶対現実。

岩手の山に智恵子と遊ぶ
夢幻《ゆめまぼろし》の生の真実。

フレンチ平原に茸《きのこ》は生えても
智恵子の遊びに変りはない。

二合の飯は今日のままごと。
牛のしつぽに韮《にら》を刻む。

強敵|糠蚊《ぬかが》とたたかひながら
三畝の畑にいのちを託す。

あばら骨に錐《きり》は刺され
肺気腫《はいきしゆ》噴射のとめどない咳《せき》。

造型は自然の中軸。
この世存在のシネ クワ ノン。

一切は智恵子a[#「a」は斜体]次元の逍遙遊《しようようゆう》。
遊ぶ時人はわづかに卑しくなくなる。

[#天から27字下げ]昭和二六・一一
[#改ページ]

  報告

あなたのきらひな東京へ
山からこんどきてみると
生れ故郷の東京が
文化のがらくたに埋もれて
足のふみ場もないやうです。
ひと皮かぶせたアスフアルトに
無用のタキシが充満して
人は南にゆかうとすると
結局北にゆかされます。
空には爆音、
地にはラウドスピーカー。
鼓膜《こまく
前へ 次へ
全73ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング