智恵子抄
高村光太郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)種子《たね》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例》印度|更紗《サラサ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数》
(例)※[#「片+總のつくり」、第3水準1−87−68]
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人に
いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
花よりさきに実のなるやうな
種子《たね》よりさきに芽の出るやうな
夏から春のすぐ来るやうな
そんな理窟に合はない不自然を
どうかしないでゐて下さい
型のやうな旦那さまと
まるい字をかくそのあなたと
かう考へてさへなぜか私は泣かれます
小鳥のやうに臆病で
大風のやうにわがままな
あなたがお嫁にゆくなんて
いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
なぜさうたやすく
さあ何といひませう――まあ言はば
その身を売る気になれるんでせう
あなたはその身を売るんです
一人の世界から
万人の世界へ
そして男に負けて
無意味に負けて
ああ何といふ醜悪事でせう
まるでさう
チ
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