に金が無ければ買物に出かけないだけであった。いよいよ食べられなくなったらというような話も時々出たが、だがどんな事があってもやるだけの仕事をやってしまわなければねというと、そう、あなたの彫刻が途中で無くなるような事があってはならないと度々言った。私達は定収入というものが無いので、金のある時は割にあり、無くなると明日からばったり無くなった。金は無くなると何処を探しても無い。二十四年間に私が彼女に着物を作ってやったのは二三度くらいのものであったろう。彼女は独身時代のぴらぴらした着物をだんだん着なくなり、ついに無装飾になり、家の内ではスエタアとズボンで通すようになった。しかも其が甚だ美しい調和を持っていた。「あなたはだんだんきれいになる」という詩の中で、
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をんなが附属品をだんだん棄てると
どうしてこんなにきれいになるのか。
年で洗はれたあなたのからだは
無辺際を飛ぶ天の金属
[#ここで字下げ終わり]
と私が書いたのも其の頃である。
自分の貧に驚かない彼女も実家の没落にはひどく心を傷めた。幾度か実家へ帰って家計整理をしたようであったが結局破産した。二本松町の大火。実
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