智恵子の半生
高村光太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)粟粒性《ぞくりゅうせい》肺結核

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)其上|肋膜《ろくまく》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)琅※[#「王+干」、第3水準1−87−83]洞
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 妻智恵子が南品川ゼームス坂病院の十五号室で精神分裂症患者として粟粒性《ぞくりゅうせい》肺結核で死んでから旬日で満二年になる。私はこの世で智恵子にめぐりあったため、彼女の純愛によって清浄にされ、以前の廃頽《はいたい》生活から救い出される事が出来た経歴を持って居り、私の精神は一にかかって彼女の存在そのものの上にあったので、智恵子の死による精神的打撃は実に烈《はげ》しく、一時は自己の芸術的製作さえ其の目標を失ったような空虚感にとりつかれた幾箇月かを過した。彼女の生前、私は自分の製作した彫刻を何人よりもさきに彼女に見せた。一日の製作の終りにも其を彼女と一緒に検討する事が此上もない喜であった。又彼女はそれ
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