ろ結球をはじめ、ジャガイモも二番花を過ぎて玉を肥らせ、芋の子もしきりに親いものまわりに数を増し、南瓜《カボチャ》、西瓜《すいか》、南部金瓜はもう堂々と愛嬌《あいきょう》のある頭をそろえる。野山に山百合の白い花が点々と目立ち、そこら中に芳香を放つようになると、今度は栗の番になる。
 山麓《さんろく》から低い山にかけて東北には栗の木が多い。栗の木は材の堅いくせに育ちが早く、いくら伐《き》ってもいつのまにか又林になる。そして秋にはうまい栗の実をとりきれないほど沢山ならせる。山口部落の奥のわたくしの小屋はその栗林のまんなかにあるので、九月末になると殆と栗責めである。
 日中はまだ少し暑いが、朝の空気はむしろ肌さむいほどの清涼さ。そのきれいな空気を吸いに朝の戸口をとび出すと、眼の前の地面に栗いろの栗がころころ落ちている。この落ちて間もない栗の実の色とつやとは実に美しく、清潔な感じで、殊にお尻の白いところがくっきりと白く、まったく生きている。しっとりとした地面の上にこれが散らばっている黒と褐色との調和は高雅である。拾いはじめると、あちらにもこちらにも眼につき、繁ったニラの葉の中や、菊のかげ、ススキ
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