にしばり合せて三角形にひらいて立て並べる。これを「しま」とよんでいるようだ。それから粟を刈る。粟は黄いろの穂をゆたかにたれてうつくしい。ジャガイモはもうすっかり掘り上げてしまい、インゲンも、小豆も、大豆もきれいに刈られる。豆をとったあとの大豆の株はたくさん農家の軒下に乾されて冬中の大切な飼料になる。稲の刈入時は戦のようだ。毎日総出で朝から晩まで休む暇もない。天候との競争のように見える。刈った稲束は一たん田の畔《あぜ》に逆さに並べられて幾日か置かれる。それからやがて本式に稲架《はぜ》にかけ並べられる。たんぼの中に太い棒を立てて、これに高く稲束を丸くつみ重ねる方式もあり、又は低く積む方式もある。夜など見るとまるで巨人が立っているようだ。普通は棚のように横に四段にしつらえた丸太に逆さにぎっしりかけ並べる。まるで路の両側に稲穂の塀が出来たように見える。その金いろの稲穂の塀の間の路をゆくと、あの一種独特な、うまそうな稲の香りが強烈に匂ってきて、農家の営みの大半がまず無事に終ったなという大安心を感じさせる。わたくしは町へ用足しに出て帰る途中など、この稲穂を見るのがたのしかった。穂にも大きな粒や小さ
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