毛だらけで、いかにも馬喰らしい。これも相当に大きくなり、町でよろこんで人が買う。乾しておくといい香りが出て、すまし汁に使える。歯ぎれのよい、食べでのある茸だ。わたくしは茸の図鑑と引きくらべて、「食」とある茸は何でも食べてみた。村の人の食べないようなものでも平気でたべた。老成すると煙の出るツチグリの若いのもたべたし、アワタケもたべた。アワタケは割に大きな、間のぬけた茸で、村の人はアンパンといって馬鹿にしている。いかにもアンパンという感じの、うまくもない茸であるが愛嬌《あいきょう》があった。
秋の鳴く虫は語りつくせない。とにかくあらゆる種類の鳴く虫が一せいに小屋をかこんで夜は鳴く。ガチャガチャの声だけはきかなかったが、これは里の虫かもしれない。東京と同じようにここでもコオロギがいちばんあとに残って雪の頃までどこかの隅でとぎれとぎれに鳴いている。あわれのようだが、又それだけ生命の強さを物語っている。
十月になると農家ではいよいよ一年の収穫で、たのしい忙がしい日が十一月一ぱいはつづく。まずヒエを刈る。ヒエは穂からこぼれ易いものなので刈り時があるらしい。根から刈って十本くらいを一株になるよう
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