する。ギンタケのみそ汁は山の珍だ。ムラサキシメジという紫の濃いきれいな茸も出るが、味はさほどでない。クリタケ、ウスタケ、アンズタケ、その他食用になるのがいろいろ出るが、ナメコはこの山には出ない。毒茸も多い。まっかなベニタケ、星のついたテングタケは恐ろしい毒物だし、夜になると燐光《りんこう》を発するツキヨダケというのも出る。椎茸とまちがえられるほどよく似た茸だが、ほのかな異臭があるし、うらのひだが細かい。暗夜木の根株などにぼんやり光っているのを見ると不気味である。イッポンシメジにも猛毒があり、タマゴテングダケは命とりだ。茸の中で殊に珍重されるのはマイタケとコウタケとである。マイタケは深山にあり、一貫目以上もある大きなものもあるが、太い胴体の上部にネズミの足のような手がたくさん出ている灰白色の茸だ。味もよく、だしが出て調理人によろこばれる。マイタケ専門に探してあるいて町で高価に売り、それで一時の暮しを立てているマタギの連中もいるという。コウタケのことをこの辺では馬喰茸《ばくろうたけ》といっているが、その名の通り見た眼には恐ろしい茸で、形は傘をお緒《ちょこ》口にしたようなものだが、色が黒く、
前へ 次へ
全16ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング