、審査請求を出すという承諾を戴こうではないか」「異議なし」
かなり長い拍手が消えようとはしなかった。私は頭を垂れてそれをきいていた。
個人の決意の力にのしかかる集団の決議の力は、かくも断層の差をもって押しかかるかと思われるほどであった。また心の隅には戦いが初まって以来、かかる意味の大衆の拍手の嵐の中に、生きていつの日にか面し得ると、乾きに乾いたものがあって、今、それが、スポンジがぬれてゆくようにふくれ上ってゆくものがあった。
私はとうとう黙ってしまった。そして、私もとうとう笑ってしまった。「あはははーっ」と、多くのつぶらな眼も笑ってしまった。彼等は審査請求書を書きあげて、期限の日の夜の十一時四十五分、ちょうど時間一杯というときに県庁にもち込んだのだそうである。
中立で立つのか、社会党から立つのか、もみにもんだ。凡てを推せん団体に委ねている私は案外暢気であった。しかし四囲の事情は引くにひけぬ情勢となって行った。社会党の人々は費用二十万円は最低要るといっていた。私は代表者の会合で、民主陣営から立候補する場合、三万円以上の金で立っては必ず不純な要素が加わって来るから、この限界内で戦う
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