実践について
――馬になった話――
中井正一

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)尤《ゆう》なるもの
−−

 山口県の「光」に鉄道の講演会に行った帰途であった。柳井の駅で駅員が、「中井先生はいませんか。中井先生はいませんか」と叫んでいる。フト私の事かも知れんと思って、顔を出すと、「真直ぐに尾道に帰らずに広島に降りて下さい。労働者が待っていますから。鉄道電話の連絡です。」と言う。変だなとは思ったが、その頃広島県の中立委員として地方労働委員長をしていた私は、ともかくも広島で降りてみた。
 駅では鉄道局の委員長が待っていて、笑いながら、「先生黙って私について来て下さい」と言う。いよいよ変だとは思ったが、よく知っている仲なので、「何だい」と言いながら、従わないわけにはゆかなかった。
 電産ビルの地下室に入って見ると、意外にも五十名ばかりの人々がギッシリつまっている。委員長はいよいよ目をしょぼつかせながら「先生、今から人民裁判ですわ」と言いながら、「実は今広島県の労働組合の代表者五十名余と、社会党、農民組合の代表者が、先生を知事選挙の民主陣営の候補者として推す決議を
次へ
全8ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中井 正一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング