いるが故に、問題は歪んで来る。
芸術家も批評家も一様にこの黒いマスクをかけて躍っているのである。もし何人かこのマスクを取落すものありとせば、彼は黒い布の下から射すくめらるる無限の視線に顔を赤めて身を翻さなければならないであろう。
しかし、今やこうした組織すらもが――困ったことには――その経済的機構を付託され得なくなって来た様である。
ここにいわゆる「壇」の崩壊が萠しはじめて来たのである。全くとんだ壇の浦である。
「壇」の構造が、かくして芸術的ブローカーを中心とする未組織的集合であるとするならば、それは恰も、手工業者が、販売的ブローカーに対する如き関係を構成するに至る。この関係はやがて経済的生活の圧迫の深刻となるにつれて、一種の崩壊と解体、並に新しき組織へと方向を転ずるに至る。
手工業が漸く自己企業的組織に転換する如く、芸術的自己企業化が生れはじめる。云わばブローカーとブローカーの間にもまれるよりは、芸術家が各々一定の組織をもって、企業的自己意識をもとうと考えはじめる。例えば文芸春秋が芸術的一団体を構成して、自ら一購読雑誌として企業的組織をもとうとしている如きがそれである。文戦或
前へ
次へ
全14ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中井 正一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング