も与えまいとしての関心と焦慮、それは確かに一つの不安ではある。
 しかし、彼等の不安の一番深い根を探る時、彼等をして闇々の中に悚然《しょうぜん》として脅かしているものは、寧ろモウ一つの不安、即ちそれらの失敗がもたらすところの経済的不安である。芸術的不安という寧ろ第二次的不安より、漸くこの彼等の真の一次的不安に向って関心は凝集されはじめる。画壇にもせよ、楽壇にもせよ、その傾向はみな同じである。
 この芸術の経済性の第一階程は、先ず弟子とパトロンの捜索よりはじまる。稍々愚鈍なる浪費者を身辺に求めることは或時代に於ては可能であった。しかし、今に於ては漸く殆ど稀である。従って今や他の組織を必要とするに至った。この第二の階程は芸術的ブローカーとしてのマネジャーを把握することである。楽壇にマネジャーがあるように、画壇にも画商ブローカーがある。文壇に於ては雑誌及び出版書店がその役割を演ずる。いわゆる文壇、楽壇、画壇なるものの最近の第一次的な機能は寧ろこの階程に於ける経済的機構にあるが様である。云わばこれらブローカーへの未組織的集団的圧迫が付託されている。
 かかる経済的機構が評価並に学壇にも支配して
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