は彼れが感情の滿潮に達するを觀て其或は氣絶せんことを恐れ」に傍点]、竊かに介抱の準備を爲したりと語りしほどなれば[#「竊かに介抱の準備を爲したりと語りしほどなれば」に傍点]、其言動の激烈なりしこと以て想見す可し[#「其言動の激烈なりしこと以て想見す可し」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]而も世間彼れの疎狂を咎めずして[#「而も世間彼れの疎狂を咎めずして」に白丸傍点]、反つて彼れに同情を寄與するもの多きは何ぞや[#「反つて彼れに同情を寄與するもの多きは何ぞや」に白丸傍点]。
顧ふに彼れがあらゆる惡口雜言を濫用して、往々議場の神聖を汚がすの失體あるは、固より君子の與みせざる所なるべし※[#白ゴマ、1−3−29]余は此點に於て彼を辯護するの理由を有せずと雖も、若し夫れ形式禮法を以て人物の價値を律せば、今日誰か能く多少の指摘を免かれ得るものありとするぞ※[#白ゴマ、1−3−29]彼は大疵あれども亦大醇あり[#「彼は大疵あれども亦大醇あり」に白丸傍点]、大缺陷あれども亦大美質あり[#「大缺陷あれども亦大美質あり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]豈杓子定規を以て彼を酷論す可けむや[#「豈杓子定規を以て彼を酷論す可けむや」に白丸傍点]。
禮法を無視して惡口雜言を濫用するは[#「禮法を無視して惡口雜言を濫用するは」に傍点]、確かに彼れの大疵なり[#「確かに彼れの大疵なり」に傍点]、粗暴矯激にして軌道を逸脱するの亡状は[#「粗暴矯激にして軌道を逸脱するの亡状は」に傍点]、亦固より彼れの大缺陷なり[#「亦固より彼れの大缺陷なり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]されど是れ特に彼れの大缺陷に非ずして[#「されど是れ特に彼れの大缺陷に非ずして」に傍点]、下院全體の大缺陷なり[#「下院全體の大缺陷なり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]彼は唯だ其最も著明なる代表者たるのみ[#「彼は唯だ其最も著明なる代表者たるのみ」に白丸傍点]、而も一面に於て此の大缺陷を有すると共に[#「而も一面に於て此の大缺陷を有すると共に」に白丸傍点]、他の一面に於ては爛漫たる大醇と[#「他の一面に於ては爛漫たる大醇と」に白丸傍点]、愛す可き大美質とを有するものあるが故に[#「愛す可き大美質とを有するものあるが故に」に白丸傍点]、單に彼れの鄙野疎狂を咎むるは甚だ苛酷なり[#「單に彼れの鄙野疎狂を咎むるは甚だ苛酷なり」に白丸傍点]。何をか彼れの大醇と謂ふや、惡を憎み[#「惡を憎み」に白丸傍点]、冷血を忌むこと人に過ぎ[#「冷血を忌むこと人に過ぎ」に白丸傍点]、之れを攻撃するに於て[#「之れを攻撃するに於て」に白丸傍点]、一歩も借さゞるの熱誠是れなり[#「一歩も借さゞるの熱誠是れなり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]何をか彼れの美質と謂ふや、常に弱者の味方となりて[#「常に弱者の味方となりて」に白丸傍点]、驕慢なるもの[#「驕慢なるもの」に白丸傍点]、權力あるものに抵抗するの侠骨是れなり[#「權力あるものに抵抗するの侠骨是れなり」に白丸傍点]、彼れが故後藤伯と事毎に衝突したりしも此れが爲めにして、伯曾て彼れの強頂を患へ、切りに辭を卑うして彼を招がむとしたるも、彼は啻に伯に屈致せざりしのみならず、益々伯の失徳を追窮して毫も憚る所なかりき※[#白ゴマ、1−3−29]余は彼れが果して後藤伯の人物を正解し得たりしや否やを知らず[#「余は彼れが果して後藤伯の人物を正解し得たりしや否やを知らず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]又彼れの後藤攻撃論は[#「又彼れの後藤攻撃論は」に傍点]、果して精確なる事實に根據したりしや否を知ること能はず[#「果して精確なる事實に根據したりしや否を知ること能はず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]されど彼れの眼中に映じたる後藤伯は[#「されど彼れの眼中に映じたる後藤伯は」に白丸傍点]、老獪にして野心深く[#「老獪にして野心深く」に白丸傍点]、私利私福を貪りて正義の觀念なき奸雄なりしに似たり[#「私利私福を貪りて正義の觀念なき奸雄なりしに似たり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]則ち彼は後藤伯を認めて奸雄の偶像と認めたるが故に[#「則ち彼は後藤伯を認めて奸雄の偶像と認めたるが故に」に白丸傍点]、之れを攻撃したるのみ[#「之れを攻撃したるのみ」に白丸傍点]。
鑛毒事件は、彼れの專賣問題にして、彼れは此問題の爲めにモツブの巨魁なり[#「彼れは此問題の爲めにモツブの巨魁なり」に白丸傍点]、愚民の[#「愚民の」に白丸傍点]デマゴーグなりと[#「デマゴーグなりと」に傍点]稱せらるゝをも厭はざるなり[#「稱せらるゝをも厭はざるなり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば彼は此問題を以て人情正義の問題と爲すものなればなり[#「何となれば彼は此問題を以て人情正義の問題と爲すものなればなり」に白丸傍点]。
余は此問題に關して、全然彼れの主張[#「主張」に白三角傍点]に同意するものに非ず※[#白ゴマ、1−3−29]されど余は彼れの良心[#「良心」に白三角傍点]に同感せざるなき能はず※[#白ゴマ、1−3−29]其主張の誇大にして[#「其主張の誇大にして」に傍点]、且つ論理の極端なる[#「且つ論理の極端なる」に傍点]、殆ど無經綸に近かきものありと雖も[#「殆ど無經綸に近かきものありと雖も」に傍点]、其所信を固守して一點調和の意義を含まざるは[#「其所信を固守して一點調和の意義を含まざるは」に傍点]、决して利害に制せらるゝ政治家の夢想し得る所に非ず[#「决して利害に制せらるゝ政治家の夢想し得る所に非ず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]是れ彼れに良心の健全なるものあればなり[#「是れ彼れに良心の健全なるものあればなり」に傍点]。
誠實なる方便家
誠實是れ好方便なり[#「誠實是れ好方便なり」に白ゴマ傍点]とは、屡々余の聽く所の語なれども、之を實行するものは甚だ稀なり※[#白ゴマ、1−3−29]世間誠實の君子少なきに非ず※[#白ゴマ、1−3−29]されど單純なる誠實は好方便と爲らず※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば是れ無意義の誠實なればなり※[#白ゴマ、1−3−29]蓋し古へより能く人心を收攬するものは、决して術數權謀の士に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]されど單純なる誠實も亦た能く衆心を收攬する所以に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]唯だ誠實の士にして智慧を用ゐるもの[#「唯だ誠實の士にして智慧を用ゐるもの」に白丸傍点]、始めて能く誠實をして好方便たらしむるを得るのみ[#「始めて能く誠實をして好方便たらしむるを得るのみ」に白丸傍点]、田中正造氏の如き稍々之れを得たり[#「田中正造氏の如き稍々之れを得たり」に白丸傍点]。
彼は熱血男兒なり[#「彼は熱血男兒なり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]されど彼は决して直情徑行の純人に非ず[#「されど彼は决して直情徑行の純人に非ず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]彼は粗放なる如くにして[#「彼は粗放なる如くにして」に傍点]、其實精細の算勘に富み[#「其實精細の算勘に富み」に傍点]、直角的なる如くにして[#「直角的なる如くにして」に傍点]、反つて曲線的の行路を歩む[#「反つて曲線的の行路を歩む」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]唯だ惡を知りて惡を行はず[#「唯だ惡を知りて惡を行はず」に白丸傍点]、利害に明かにして利害に拘束せられざる[#「利害に明かにして利害に拘束せられざる」に白丸傍点]、乃ち是れ彼れの彼れたる所以なり[#「乃ち是れ彼れの彼れたる所以なり」に白丸傍点]。
試に見よ、鑛毒問題は古河市兵衞氏と地方一部の農民との間に起れる一小事件のみ※[#白ゴマ、1−3−29]决して之れを天下の大問題と謂ふ可からず※[#白ゴマ、1−3−29]而も田中氏が一たび此問題を持把して下院に現はるゝや[#「而も田中氏が一たび此問題を持把して下院に現はるゝや」に傍点]、其聲頗る大にして[#「其聲頗る大にして」に傍点]、終に下院を動かし[#「終に下院を動かし」に傍点]、政府を動かし復た之れを一小事件と認むる能はざるに至らしめたり[#「政府を動かし復た之れを一小事件と認むる能はざるに至らしめたり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]彼は此問題に於て老獪縱横なる後藤伯と爭へり[#「彼は此問題に於て老獪縱横なる後藤伯と爭へり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]才辯多智なる陸奧伯と爭へり[#「才辯多智なる陸奧伯と爭へり」に傍点]、而して一方に於ては[#「而して一方に於ては」に傍点]、大膽にして術數ある古河氏を相手として[#「大膽にして術數ある古河氏を相手として」に傍点]、不撓不屈の戰鬪を繼續したり[#「不撓不屈の戰鬪を繼續したり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]種々の誘惑種々の恐嚇種々の壓力は[#「種々の誘惑種々の恐嚇種々の壓力は」に傍点]、絶えず彼れ及び彼の代表せる地方民を掩襲したるに拘らず[#「絶えず彼れ及び彼の代表せる地方民を掩襲したるに拘らず」に傍点]、彼は一切之れを排除して[#「彼は一切之れを排除して」に傍点]、曾て窘窮したる迹を示さず[#「曾て窘窮したる迹を示さず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]是れ其戰略巧妙にして進退掛引善く機宜に適するものあるが爲なり[#「是れ其戰略巧妙にして進退掛引善く機宜に適するものあるが爲なり」に傍点]。前きに松隈内閣の成るや、世間皆以爲らく、鑛毒問題或は大に其氣※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]を收めむと※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば當時進歩黨は内閣の黨與たりしに於て[#「何となれば當時進歩黨は内閣の黨與たりしに於て」に傍点]、彼れにして若し鑛毒問題を提出せば[#「彼れにして若し鑛毒問題を提出せば」に傍点]、進歩黨と松隈内閣とは[#「進歩黨と松隈内閣とは」に傍点]、共に頗る困却す可ければなり[#「共に頗る困却す可ければなり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]然るに彼は反つて一層猛烈なる運動を開始して[#「然るに彼は反つて一層猛烈なる運動を開始して」に傍点]、終に政府をして所謂る鑛毒事件處分案なるものを施行せしめたり[#「終に政府をして所謂る鑛毒事件處分案なるものを施行せしめたり」に傍点]、是れ實に政府の一大讓與なりき[#「是れ實に政府の一大讓與なりき」に傍点]、其智亦侮る可からざるものあるを見る[#「其智亦侮る可からざるものあるを見る」に傍点]。今や彼れの先輩に依て組織せられたる現内閣は、復た鑛毒問題の襲撃を受けて、大に窘色あり※[#白ゴマ、1−3−29]彼は現内閣と地方民との間に立ちて、再び此問題を解釋せざる可らざる位地に在り※[#白ゴマ、1−3−29]是れ彼れが爲めに最も困難なる位地なりと謂ふ可し※[#白ゴマ、1−3−29]而も彼れは雲霞の如く押し寄せ來れる請願人民に對して[#「而も彼れは雲霞の如く押し寄せ來れる請願人民に對して」に傍点]、死を以て此問題の爲に盡力す可きを誓ふ[#「死を以て此問題の爲に盡力す可きを誓ふ」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]余は此の一誓言の中に[#「余は此の一誓言の中に」に白丸傍点]、亦多少の計畫[#「亦多少の計畫」に白丸傍点]、多少の作用を含蓄するものあるを信ず[#「多少の作用を含蓄するものあるを信ず」に白丸傍点]、彼れは元來非常の神經質なり[#「彼れは元來非常の神經質なり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]故に喜怒共に極めて激烈なりと雖も[#「故に喜怒共に極めて激烈なりと雖も」に白丸傍点]、其人心の詭秘を見ること甚だ深刻にして[#「其人心の詭秘を見ること甚だ深刻にして」に白丸傍点]、容易に他の欺く所とならざらむことを勉む[#「容易に他の欺く所とならざらむことを勉む」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]是れ彼れの一政友が[#「是れ彼れの一政友が」に白丸傍点]、常に此一事を以て彼れの缺點なりとする所なり[#「常に此一事を以て彼れの缺點なりとする所なり」に白丸傍点]※
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