、1−3−29]乃ち公は眞に皇室の藩屏たる可き貴族を作らむが爲に、自ら進で學習院長と爲りたりき※[#白ゴマ、1−3−29]亦以て公が志の存する所を諒とす可し。
 さりながら實際の腐敗は獨り貴族及び貴族院に止らず、近來政黨及び衆議院の腐敗は寧ろ是れに過ぎたり※[#白ゴマ、1−3−29]見よ衆議院は曾て貴族院が藩閥に盲從するの賤劣を嘲笑したりしも、今や衆議院に於ては、おの/\の政黨互ひに政府に盲從せんことを競ふて、貴族院よりも一層賤劣なる行動を表明するに非ずや※[#白ゴマ、1−3−29]獵官に非ずんば賄賂の授受を目的とし、國家の立法機關を以て利益交換の市場と爲し、代議士の公職を利用し、政黨の佳名を藉りて營利の私計を事とし、靦然として耻づるなきは、豈衆議院の近状に非ずや。而して政府も亦衆議院の腐敗に乘じて盛に買收政略を行ひ、朝野相習ひて相怪まざるのみならず、反つて之れを怪むものを指笑して、政治の趣味を了解せざるものとするの時代とはなりぬ。
 腐敗の事實は敢て今日に發したるに非ず※[#白ゴマ、1−3−29]さりながら近衞公は未だ横濱埋立事件の如く驚く可き奇觀をば目撃せざりき※[#白ゴマ、1−3−29]此事件は啻に政黨の腐敗を事實上に表示したる最好の證據たるのみならず、直に是れ憲法政治の危機を表示したる一大惡兆なり※[#白ゴマ、1−3−29]星亨は前年取引所より收賄したりといふの嫌疑[#「嫌疑」に白丸傍点]に依りて衆議院議員より除名せられたる時、自由黨すらも亦一人の之れを惜むものなかりき※[#白ゴマ、1−3−29]今や彼は公然議員買收の非行を自白[#「自白」に白丸傍点]するも、自由黨の多數は之れを不問に附して、隨て其迹を曲庇せり※[#白ゴマ、1−3−29]特に最も奇怪なるは[#「特に最も奇怪なるは」に傍点]、斯る政治的道徳を破壞して憚らざる人物が[#「斯る政治的道徳を破壞して憚らざる人物が」に傍点]、反つて益々其勢力範圍を擴張するを見て[#「反つて益々其勢力範圍を擴張するを見て」に傍点]、世間寧ろ其手腕の敏なるを稱すること是れなり[#「世間寧ろ其手腕の敏なるを稱すること是れなり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]故に人は星亨を目して時代の權化といひ[#「故に人は星亨を目して時代の權化といひ」に傍点]、亦深く其非行を咎めざらむとするものゝ如し[#「亦深く其非行を咎めざらむとするものゝ如し」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]是れ支那朝鮮に於て覩る可き現象にして、我帝國に在ては歴史あつてより以來殆ど稀有の世變と謂ふも可なり。
 近衞公は貴族の儀表にして、其高風固より國民の瞻仰する所※[#白ゴマ、1−3−29]而も未來の總理大臣として公に屬望するもの亦少なからざるに於て、公は單に貴族の教育を以て目的とするのみならずして、又國民の指導を以て今後の重責と爲さゞる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]今や一般政治社會の腐敗は心あるものをして皆竊かに國家の前途を憂へしめぬ※[#白ゴマ、1−3−29]是れ公が當に新運動を開始して光華ある歴史の第一章を作る可き時に非ずや。

      (下)
 近衞公にして若し新運動を開始するものとせば、公は果して如何なる方向を選む可き乎※[#白ゴマ、1−3−29]或は同志を天下に求めて[#「或は同志を天下に求めて」に白丸傍点]、健全なる一政黨を組織す可き乎[#「健全なる一政黨を組織す可き乎」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]或は既成政黨の孰れにか身を投じて大に政黨革新の事に從ふ可き乎[#「或は既成政黨の孰れにか身を投じて大に政黨革新の事に從ふ可き乎」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]又或は一切の政黨を否認して[#「又或は一切の政黨を否認して」に白丸傍点]、黨派の外に超然たらむ乎[#「黨派の外に超然たらむ乎」に白丸傍点]。
 現今の政黨は、其腐敗に於て五十歩百歩の差はあれども、其腐敗は則ち一なり※[#白ゴマ、1−3−29]帝國黨は自ら既成政黨の腐敗に襲はれずと揚言したれども、其實、帝國黨は最も腐敗の黴菌多かりし國民協會の變形のみ※[#白ゴマ、1−3−29]其腐敗したるや固より久しと謂ふ可し※[#白ゴマ、1−3−29]されば政黨は總べて腐敗す可きものなりや、若し然りとすれば、一切の政黨を非認して黨派の外に超然たるも亦已むを得ずと雖も[#「黨派の外に超然たるも亦已むを得ずと雖も」に傍点]、凡そ政黨の腐敗は政黨自身の罪に非ずして時代の罪なり[#「凡そ政黨の腐敗は政黨自身の罪に非ずして時代の罪なり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]則ち政黨を非認せむとせば[#「則ち政黨を非認せむとせば」に傍点]、先づ時代を非認せざる可からず[#「先づ時代を非認せざる可からず」に傍点]、而も唯だ時代を非認するのみにて別に經綸の策を講ぜざるものは[#「而も唯だ時代を非認するのみにて別に經綸の策を講ぜざるものは」に傍点]、是れ哲學者にして政治家に非ざるを如何せむ[#「是れ哲學者にして政治家に非ざるを如何せむ」に傍点]。
 近時動もすれば政黨より逃がれて一身を潔くせむとするの人あり※[#白ゴマ、1−3−29]其情諒す可きものありと雖も、亦一種の厭世觀のみ※[#白ゴマ、1−3−29]政治家は徹頭徹尾現實世界の人なり※[#白ゴマ、1−3−29]現實を離れて政治なるものなく、現實世界を外にして政治家の働く可き場所あることなし※[#白ゴマ、1−3−29]時代非なればとて政治を中止す可からず[#「時代非なればとて政治を中止す可からず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]政黨腐敗したればとて必ずしも政黨其物を非認す可き謂れなきに非ずや[#「政黨腐敗したればとて必ずしも政黨其物を非認す可き謂れなきに非ずや」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]况んや十分政黨の價値を認識せる近衞公に於てをや※[#白ゴマ、1−3−29]然らば公は既成政黨に入らむ乎※[#白ゴマ、1−3−29]若し既成政黨に入るとせば、孰れの政黨に入る可き乎。
 公の既成政黨に入るは[#「公の既成政黨に入るは」に白丸傍点]、絶對的に利ならず[#「絶對的に利ならず」に白丸傍点]、又絶對的に害ならず[#「又絶對的に害ならず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]請ふ末松男の例を觀察せんか※[#白ゴマ、1−3−29]顧ふに自由黨は決して末松男の理想を滿足せしむるの政黨にはあらじ※[#白ゴマ、1−3−29]唯だ彼は政黨の勢力を認識する政治家なるを以て、比較上政見相接近したる自由黨に入りたるのみ、其一利一害の多少は[#「其一利一害の多少は」に傍点]、要するに彼れの思想と自由黨との調和の度合如何に由れり[#「要するに彼れの思想と自由黨との調和の度合如何に由れり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]換言せば[#「換言せば」に傍点]自由黨が彼れの理想を容るゝこと多ければ多きだけ彼れの利多く[#「自由黨が彼れの理想を容るゝこと多ければ多きだけ彼れの利多く」に傍点]、之れに反すれば其結果隨て同じからずといふまでなり[#「之れに反すれば其結果隨て同じからずといふまでなり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]近衞公に於ても又然り※[#白ゴマ、1−3−29]假りに公をして進歩黨に入らしめよ[#「假りに公をして進歩黨に入らしめよ」に白丸傍点]、進歩黨には公を崇拜するもの頗る多く[#「進歩黨には公を崇拜するもの頗る多く」に白丸傍点]、且つ公の人物を崇拜するのみならず[#「且つ公の人物を崇拜するのみならず」に白丸傍点]、公の政見に同情を表するもの亦少なからざるを以て[#「公の政見に同情を表するもの亦少なからざるを以て」に白丸傍点]、其利必らず末松男の自由黨に於けるよりも大なるものあらむ[#「其利必らず末松男の自由黨に於けるよりも大なるものあらむ」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]而も其の決して公の理想を滿足せしむる能はざるものたるは毫も自由黨對末松男の關係に異らざる可きのみ[#「而も其の決して公の理想を滿足せしむる能はざるものたるは毫も自由黨對末松男の關係に異らざる可きのみ」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]人或は公が既成政黨の首領たる伎倆あるや否やを疑ふものあれども、是れは無益の疑問なり※[#白ゴマ、1−3−29]進歩黨は百二十餘の代議士を有すと稱すれども、一人の大隈伯に代る可き好首領なく、自由黨は亦百頭顱に近かき代議士を包有すと雖も、伊藤侯に非ずむば、其全黨を壓するの資望あるものなし※[#白ゴマ、1−3−29]近衞公は固より最良の政黨首領に非ざる可し[#「近衞公は固より最良の政黨首領に非ざる可し」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]さりながら星亨にして[#「さりながら星亨にして」に白丸傍点]、犬養毅にして[#「犬養毅にして」に白丸傍点]、將た末松謙澄にして[#「將た末松謙澄にして」に白丸傍点]、政黨の首領たるを得可くむば[#「政黨の首領たるを得可くむば」に白丸傍点]、公は更に彼等よりも大なる首領たるを得可きに非ずや[#「公は更に彼等よりも大なる首領たるを得可きに非ずや」に白丸傍点]。
 公若し既成政黨に入るを利あらずとして別に一政黨を組織せば如何※[#白ゴマ、1−3−29]是れ亦面白し※[#白ゴマ、1−3−29]既成政黨の孰れにも關係なき中立派は喜むで公を迎ふるのみならず、既成政黨の腐敗に厭き果てたる健全なる同志者は、亦必らず響應して起たむ※[#白ゴマ、1−3−29]是れ伊藤侯の曾て計畫して未だ實行せざるもの※[#白ゴマ、1−3−29]公乃ち今日伊藤侯の未だ實行せざるものを實行する、亦妙ならずとせむや。
 歸朝したる近衞公は、政治上の未定數なりと雖も、其一擧一動は、少なからざる注意を以て國民に屬目せらる※[#白ゴマ、1−3−29]余は公が當に如何なる態度を以て其新運動を開始す可き乎を觀むとす。(三十二年十二月)

     故近衞公を追憶す

      近衞公と政黨内閣
 故近衞公は、最も多望なる未來の人なりき。不幸にして、一朝病の爲めに過去の人となり、國家は之れによりて柱石たるべき偉材を失ひ、貴族は之れによりて好個の首領を失ひ、國民は之れによりて又た一代の儀表たるべき人物を失ひたり。余は公の知を辱うする茲に十有餘年[#「余は公の知を辱うする茲に十有餘年」に傍点]、其の間屡ば公に謁して[#「其の間屡ば公に謁して」に傍点]、公の指導を受けたるもの頗る多く[#「公の指導を受けたるもの頗る多く」に傍点]、今にして之れを追懷すれば[#「今にして之れを追懷すれば」に傍点]、音容尚ほ儼として目に在るが如きを覺ゆ[#「音容尚ほ儼として目に在るが如きを覺ゆ」に傍点]。嗟乎公薨ずるの日[#「嗟乎公薨ずるの日」に白丸傍点]、享年僅に四十有二[#「享年僅に四十有二」に白丸傍点]、識量漸く長じ[#「識量漸く長じ」に白丸傍点]、威望次第に高きを加へむとするの時に方り[#「威望次第に高きを加へむとするの時に方り」に白丸傍点]、空しく雄志を齎らして永久の眠に就く[#「空しく雄志を齎らして永久の眠に就く」に白丸傍点]。人生の恨事寧ろ是れに過ぐるものあらむや[#「人生の恨事寧ろ是れに過ぐるものあらむや」に白丸傍点]。
 余が始めて公と相識りしは、明治二十七年二月中旬なりき。當時余は毎日新聞の一記者たりしを以て、主筆島田三郎君は、特に翰を裁して余を公に紹介し呉れたりき。余の公を訪問したる際は[#「余の公を訪問したる際は」に白三角傍点]、公は貴族院に於ける硬派の領袖として[#「公は貴族院に於ける硬派の領袖として」に白三角傍点]、第二次伊藤内閣に對する隱然たる一敵國たりき[#「第二次伊藤内閣に對する隱然たる一敵國たりき」に白三角傍点]。蓋し公は伊藤内閣が第五期議會を解散したるを以て、非立憲的動作と爲し、貴族院議員三十七名と連署して、忠告書を伊藤首相に與へ、首相の復書に接するや、更に復書辯妄と題する一文を草し、機關雜誌『精神』の號外として之れを發表したりき。其の論旨侃諤[#「其の論旨侃諤」に傍点]、首相の無責任を攻
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