撃して毫も假藉する所なきの故を以て[#「首相の無責任を攻撃して毫も假藉する所なきの故を以て」に傍点]、在野の黨人は自然に公と相接近すると共に[#「在野の黨人は自然に公と相接近すると共に」に傍点]、伊藤内閣は公を認めて侮るべからざるの強敵と爲せり[#「伊藤内閣は公を認めて侮るべからざるの強敵と爲せり」に傍点]。然れども余の始めて見たる近衞公は、極めて平允端懿なる貴公子なりき[#「極めて平允端懿なる貴公子なりき」に二重丸傍点]。其の言動は固より尋常※[#「糸+丸」、第3水準1−89−90]袴者流と同じからずと雖も[#「其の言動は固より尋常※[#「糸+丸」、第3水準1−89−90]袴者流と同じからずと雖も」に二重丸傍点]、漫に氣を負ひ爭を好むの士に非ずして[#「漫に氣を負ひ爭を好むの士に非ずして」に二重丸傍点]、極めて眞面目なる[#「極めて眞面目なる」に二重丸傍点]、極めて沈着なる政治家なりき[#「極めて沈着なる政治家なりき」に二重丸傍点]。
 尋で第六議會復た解散せらるゝや、公は再び非解散意見と題するものを『精神』の號外として發表し、公然伊藤内閣に宣戰状を贈りたり。其の末文に言へるあり、曰く要するに伊藤内閣の信任し難き事實は、天下の耳目に彰々として現はれ來れり。而して解散の結果として、將に來るべき總選擧の紛擾は國民の心を痛ましめ、國民の財力を費さしむること極めて大ならむとす。想ふに現内閣の言動は、今後依然として今日の如くならむ。今日の言動を以て國民の信任を全うせむと望むが如きは、斷※[#「さんずい+(廣−广)」、第3水準1−87−13]に棹して海洋に浮ぶの目的を達せむとするに均し。國民は斯る内閣の言動を是認せざるべし。既に現内閣の言動を是認せずとせば、則ち現内閣の言動に反對し、死活を爭ひたる諸代議士の再選を勉めざる可からず。我愛國忠君の赤誠に富める國民にして、再三再四同一の方針を取りて動かず、同一主義の代議士を議會に送らば、輿論の光輝は、當に天※[#「門<昏」、第3水準1−93−52]に達するの期遠きにあらざるべし。國民たるもの赤誠を以て其の歩を進めざるべからず。篤麿駑たりと雖も[#「篤麿駑たりと雖も」に白三角傍点]、與に共に勇奮以て諸士の同伴侶たらむと欲す[#「與に共に勇奮以て諸士の同伴侶たらむと欲す」に白三角傍点]。諸士請ふ手を携へて往かむ哉と[#「諸士請ふ手を携へて往かむ哉と」に白三角傍点]。此の時に當り、伊藤内閣の公等一派を憎むこと絶頂に達し、同族中公の言動を議するもの亦少なからざりしに拘らず、公は能く私情に忍びて公義に殉ずるの態度を維持したりき。
 公は曾て獨逸に留學して、頗るスタインの國家主義に私淑する所多しと雖も、其の立憲政治に關する思想の傾向は[#「其の立憲政治に關する思想の傾向は」に白丸傍点]、大體に於て英國的なり[#「大體に於て英國的なり」に白丸傍点]。故に初期議會以來常に藩閥内閣に反對して政黨内閣の本義を主張したりき[#「故に初期議會以來常に藩閥内閣に反對して政黨内閣の本義を主張したりき」に白丸傍点]。然れども公の政黨内閣論は、夫の政權爭奪を目的とせる黨派政治家と大に其の見地を異にせり。公の政黨内閣を主張するは[#「公の政黨内閣を主張するは」に二重丸傍点]、之を措て憲政の運用を圓滑ならしむるの道なしと信ずるが爲めのみ[#「之を措て憲政の運用を圓滑ならしむるの道なしと信ずるが爲めのみ」に二重丸傍点]。故に徒らに政權の爭奪を事とする政黨は[#「故に徒らに政權の爭奪を事とする政黨は」に二重丸傍点]、公の斷じて與みせざる所なりき[#「公の斷じて與みせざる所なりき」に二重丸傍点]。
 公曾て『慨世私言』を著はして、内閣と政黨との關係を詳論したることあり。其の黨人を戒むるの言に曰く、在野政黨員たるものも、徒らに政府乘取の紛爭を愼まざるべからず。何となれば立憲政治の時運に到達したる國家に於ては、急躁焦慮する所なきも早晩政黨内閣の起るべきは其の數なり。而も今日の如く、各黨各派孰れも確乎たる一大主義を有するなく、情實に合し、情實に離れ、小黨分裂の時に於て、政府を乘取らむとするも豈得べけむや。假令幸にして乘取り得たるとするも、其れ能く一黨一派の内閣にして、久しく其の位地を支ふるを得べけむや。朝たに新内閣成りて夕べに僵る[#「朝たに新内閣成りて夕べに僵る」に白三角傍点]、國家の爲に何の益ぞ[#「國家の爲に何の益ぞ」に白三角傍点]。國民の爲に何の利ぞ[#「國民の爲に何の利ぞ」に白三角傍点]。寧ろ國家の大勢定りて[#「寧ろ國家の大勢定りて」に白三角傍点]、政黨の爭ふ所主義の實行に一定し[#「政黨の爭ふ所主義の實行に一定し」に白三角傍点]、一大政黨を以て一大政黨と爭ふの時期を待つの國家國民の利たるに如かずと[#「一大政黨を以て一大政黨と爭ふの時期を待つの國家國民の利たるに如かずと」に白三角傍点]。以て公の志の在る所を知るべし[#「以て公の志の在る所を知るべし」に白三角傍点]。
 余は二十八年二月雜誌『精神』の董刊を公より託せられ、爾來重大なる問題起る毎に、公の意見を聽くの機會に接すること益々多かりき。後ち精神を改題して『明治評論』と爲すや、公は其の立案に成れる『朝黨野黨』と題する一論文を余に與へて、其の初刊の紙上に掲げしめたり。當時伊藤内閣は自ら稱して超然内閣といひしに拘らず、竊に自由黨と提携し、又別に國民協會をも收攬して内閣の黨援と爲さむとし、其の旗幟甚だ鮮明を缺きたるのみならず、動もすれば内部の調和を謀るに急なるが爲に、彌縫と姑息とを事とするの状あり。而して在野黨の如きも、各派互ひに相分立して、一大政黨を組織するに至らず、隨つて其の在野黨としての勢力毫も發展する所あるを見ざりき。公乃ち伊藤首相に向ては、其の宜しく超然主義を棄て[#「其の宜しく超然主義を棄て」に白三角傍点]、純粹なる政府黨を作り[#「純粹なる政府黨を作り」に白三角傍点]、以て其の旗幟を鮮明にすべきを勸め[#「以て其の旗幟を鮮明にすべきを勸め」に白三角傍点]、在野黨の盟主たる大隈伯に向ては[#「在野黨の盟主たる大隈伯に向ては」に白三角傍点]、其の宜しく改進黨との關係を絶ちて各派合同の疏通に便ならしむべきを説きたり[#「其の宜しく改進黨との關係を絶ちて各派合同の疏通に便ならしむべきを説きたり」に白三角傍点]。是れ一篇の眼目なりき。公は此意見を以て直接間接に朝野の政治家を指導するに努めたるは言ふまでもなく、大勢亦久しからずして、遂に半ば公の意見を實現し、自由黨は公然政府黨と爲り、改進黨其餘の各派は、相合同して進歩黨を組織するに至りき。
 然れども公は唯だ至公至誠を以て時局に處し[#「然れども公は唯だ至公至誠を以て時局に處し」に白丸傍点]、未だ曾て政權爭奪の渦中に陷りたることあらず[#「未だ曾て政權爭奪の渦中に陷りたることあらず」に白丸傍点]。故に二十九年松隈内閣成るや[#「故に二十九年松隈内閣成るや」に白丸傍点]、公は文部大臣の候補に擬せられ[#「公は文部大臣の候補に擬せられ」に白丸傍点]、切に入閣を慫慂せられたりと雖も[#「切に入閣を慫慂せられたりと雖も」に白丸傍点]、公は固辭して之れを受けざりき[#「公は固辭して之れを受けざりき」に白丸傍点]。公を知ると知らざるとを問はず、皆公の入閣を希望せざるものなく、余も亦實に公の自ら起たむことを勸告したる一人なりき。公其の心事を余に語りて曰く、松隈内閣は一種の聯合内閣なり[#「松隈内閣は一種の聯合内閣なり」に傍点]、之れを從來の内閣に比すれば[#「之れを從來の内閣に比すれば」に傍点]、稍々進歩したる體貌を有するに似たりと雖も[#「稍々進歩したる體貌を有するに似たりと雖も」に傍点]、其の實質は薄弱にして統一を缺き[#「其の實質は薄弱にして統一を缺き」に傍点]、情弊尚ほ依然として内部に纏綿せり[#「情弊尚ほ依然として内部に纏綿せり」に傍点]。其の前途知るべきのみ[#「其の前途知るべきのみ」に傍点]。我れ不似と雖も[#「我れ不似と雖も」に傍点]、身華冑の首班に列し[#「身華冑の首班に列し」に傍点]、任重く途遠し[#「任重く途遠し」に傍点]。又何ぞ躁進して功名を徼倖し[#「又何ぞ躁進して功名を徼倖し」に傍点]、以て自ら求めて名節を汚がすの位地に立つの愚に出でむや[#「以て自ら求めて名節を汚がすの位地に立つの愚に出でむや」に傍点]。且つ我れ[#「且つ我れ」に傍点]、陛下の命を受けて學習院の院長たり[#「陛下の命を受けて學習院の院長たり」に傍点]。眞に華族をして皇室の藩屏たらしめむとせば[#「眞に華族をして皇室の藩屏たらしめむとせば」に傍点]、先づ華族の子弟を教育するより急なるはなし[#「先づ華族の子弟を教育するより急なるはなし」に傍点]。我れ既に此目的を抱て[#「我れ既に此目的を抱て」に傍点]、專ら措畫經營する所少なからず[#「專ら措畫經營する所少なからず」に傍点]、之れを完成するは談豈容易ならむや[#「之れを完成するは談豈容易ならむや」に傍点]。文部大臣たるの適材は世間自ら其の人あらむ[#「文部大臣たるの適材は世間自ら其の人あらむ」に傍点]、學習院の措畫經營は[#「學習院の措畫經營は」に傍点]、斷じて之れを他人に委する能はず[#「斷じて之れを他人に委する能はず」に傍点]と。蓋し公は是より前、學習院長に任ぜられ、全力を擧げて華族の子弟教育に從事しつゝありしを以てなり。余は公の著眼の高明なると[#「余は公の著眼の高明なると」に白丸傍点]、心事の純潔なるに服し[#「心事の純潔なるに服し」に白丸傍点]、益々公の人格に敬意を表せざるを得ざりき[#「益々公の人格に敬意を表せざるを得ざりき」に白丸傍点]。
 松隈内閣は果して公の豫想に違はず、所謂薩派と進歩派との紛爭日に絶えずして、忽ち瓦解するに至れり。政界は再び伊藤内閣を復活したりき。而も其の内閣は舊に仍りて超然主義を唱へたりしがゆゑに、自由黨は反旗を飜へして内閣攻撃の位地に立ち、尋で進歩黨と合同して憲政黨と爲るや、伊藤侯は大隈板垣二老を奏薦して新内閣を組織せしめ、茲に始めて政黨内閣の組織を見るを得たりき。而も此の内閣は、政黨内閣としては最も醜惡を極め、特に人才の選叙に於て當を得ざるもの頗る多かりき。黨派の腐敗漸く此の時より助長し、政界の溷濁復た濟ふ可からざるの状態に陷りたり。是に於てか、公の政黨内閣に對する信念は、多少の動搖を始め來りしものゝ如くなりき。公曰く、政黨内閣は暫らく斷念せざる可からず[#「政黨内閣は暫らく斷念せざる可からず」に白三角傍点]と。但だ公の君國に忠實なる、憲政の運用を圓滑ならしむるの道に於て、曾て一日も之れが講究を忘れたることあらず。故に第十八議會に於て[#「故に第十八議會に於て」に傍点]、桂内閣と衆議院と衝突するや[#「桂内閣と衆議院と衝突するや」に傍点]、公は無益の紛爭によりて國務の進行を阻碍するを見るに忍びず自ら兩者の間に立ちて妥協を謀らむとしたりき[#「公は無益の紛爭によりて國務の進行を阻碍するを見るに忍びず自ら兩者の間に立ちて妥協を謀らむとしたりき」に傍点]。其の盡力は成功せざりしと雖も[#「其の盡力は成功せざりしと雖も」に傍点]、世人は深く公の苦心を諒としたりき[#「世人は深く公の苦心を諒としたりき」に傍点]。
 余の見たる近衞公は、日本貴族の最高貴なる血液を遺傳したると共に[#「日本貴族の最高貴なる血液を遺傳したると共に」に二重丸傍点]、又た其の最純良なる性質をも禀受したりき[#「又た其の最純良なる性質をも禀受したりき」に二重丸傍点]。其の名利の範疇を超脱して、一意唯だ君國に報効せむことを圖りたるは之れが爲なり。然れども公は黨派政治家として成功するの人に非ざりしが如し[#「然れども公は黨派政治家として成功するの人に非ざりしが如し」に白丸傍点]。何となれば山野の習氣を帶びたる黨人を指導するよりも[#「何となれば山野の習氣を帶びたる黨人を指導するよりも」に白丸傍点]、君側に侍して献替補弼するの[#「君側に侍して献替補弼するの」に白丸傍点]、寧ろ公の人
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