して[#「憲政黨は其組織を一變して」に白丸傍点]、更に侯の理想に依て着色せられたる新政黨と爲らむ[#「更に侯の理想に依て着色せられたる新政黨と爲らむ」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]而して自由主義は專制主義と爲り[#「而して自由主義は專制主義と爲り」に白丸傍点]、而して指導者を得る代りに命令者を得む[#「而して指導者を得る代りに命令者を得む」に白丸傍点]。(三十二年八月)
立憲政友會の創立及び其創立者
(一)新組織の政黨
立憲政友會の創立は、確かに政治上の一進歩なり。少くとも近かき未來に於ける局面展開の動力たる可きは、何人も疑はざる所なり。但だ其の組織の果して健全なる發達を遂げ、其實力形貌共に果して能く完全なる政黨たるを得可きや否やは、是れ固より前途に横はれる未解の設題たるのみ。余は敢て之が解釋を今日に試みむといふには非ず[#「余は敢て之が解釋を今日に試みむといふには非ず」に傍点]。
立憲政友會の創立者を見るに、資望朝野の間に高き伊藤侯以下或は曾て臺閣に列したる人あり、或は前日まで一黨の領袖たりし人あり、或は敏腕の名ある舊官吏あり、或は地方の豪紳あり、其の他間接直接に立憲政友會の創立に與かりたるものは、孰れも所謂當代の名士にして、其自ら揚言する所を聞けば、遖ぱれ憲政の完成を期するを以て任と爲し、私利を謀らず、獵官を願はざる忠誠明識の政治家なるものゝ如し。余豈其の醇駁を判じ[#「余豈其の醇駁を判じ」に傍点]、清濁を斷ずといはむや[#「清濁を斷ずといはむや」に傍点]。
且つ政友會の總裁たる伊藤侯は、久しく既成政黨の弊害を憂へ、屡々公私の集會に臨みて之れが矯正の必要を唱へたるを見るに於て、其の今囘自ら起て立憲政友會を組織したるもの、蓋し亦平生の理想を行はむと欲するに外ならじ。余は此の點に於て深く侯の志を諒とし[#「余は此の點に於て深く侯の志を諒とし」に傍点]、唯熱心に侯の成功を祷ると共に侯の幕下に集まれる諸君子が[#「唯熱心に侯の成功を祷ると共に侯の幕下に集まれる諸君子が」に傍点]、始終善く侯の指導に服從し[#「始終善く侯の指導に服從し」に傍点]、以て國家の爲めに侯の志を成さしめむことを望むや極めて切なり[#「以て國家の爲めに侯の志を成さしめむことを望むや極めて切なり」に傍点]。有體にいへば[#「有體にいへば」に傍点]、余は不幸にして侯の人物及び經綸に深厚なる同情を表する能はず[#「余は不幸にして侯の人物及び經綸に深厚なる同情を表する能はず」に傍点]。されど其の六十有二の高齡に達して[#「されど其の六十有二の高齡に達して」に傍点]、意氣未だ毫も衰へず[#「意氣未だ毫も衰へず」に傍点]、自ら政友會を發起して[#「自ら政友會を發起して」に傍点]、政治的新生涯の人たるを期す[#「政治的新生涯の人たるを期す」に傍点]。其の頭腦精神の強健なる[#「其の頭腦精神の強健なる」に傍点]、亦一代の豪といふ可し[#「亦一代の豪といふ可し」に傍点]。
余は侯が政友會を發起したるを以て政治的新生涯に入るといふは何ぞや。侯が藩閥の範疇を脱して國民的政治家と爲るの序幕は、疑ひもなく政友會の組織なればなり。侯は曾て超然主義の政治家なりき。今や侯は其の宿見を抛棄して自ら政黨を組織せり。是れ侯の歴史に一大段落を作りしものに非ずや。唯だ侯が淡泊に舊自由黨に入らずして、別に自家の單意に依りて政友會を發起したるは、稍々狹隘自重に過ぎたるの嫌あれども、是れ寧ろ侯の老獪のみ[#「是れ寧ろ侯の老獪のみ」に白丸傍点]。
曩に舊自由黨總務委員が伊藤侯を大磯に訪ふて、侯に入黨を勸め、以て全黨指導の位地に立たむことを請ふや、侯は更に熟考の必要ありと稱して即諾を與ふるに躊躇したりき。余を以て其の心事を推すに、第一歴史あり情實ある既成政黨に入るときは[#「歴史あり情實ある既成政黨に入るときは」に白丸傍点]、勢ひ自家の自由手腕を拘束せられて[#「勢ひ自家の自由手腕を拘束せられて」に白丸傍点]、十分其の意見を行ふこと能はざる恐れあり[#「十分其の意見を行ふこと能はざる恐れあり」に白丸傍点]。第二舊自由黨には政敵多く[#「第二舊自由黨には政敵多く」に白丸傍点]、特に侯の政友は侯と倶に舊自由黨に入るを好まざりし事情あり[#「特に侯の政友は侯と倶に舊自由黨に入るを好まざりし事情あり」に白丸傍点]。第三舊自由黨は[#「第三舊自由黨は」に白丸傍点]、當時局面展開を唱へて山縣内閣と提携を絶ち[#「當時局面展開を唱へて山縣内閣と提携を絶ち」に白丸傍点]、隨つて事實上山縣内閣に反對する態度を執りしを以て[#「隨つて事實上山縣内閣に反對する態度を執りしを以て」に白丸傍点]、若し伊藤侯にして此の際舊自由黨に入りて之れを指導するに至らば[#「若し伊藤侯にして此の際舊自由黨に入りて之れを指導するに至らば」に白丸傍点]、是れ恰も政權爭奪の野心を表示するに同じく[#「是れ恰も政權爭奪の野心を表示するに同じく」に白丸傍点]、山縣内閣の手前[#「山縣内閣の手前」に白丸傍点]、甚だ面白ろからず[#「甚だ面白ろからず」に白丸傍点]。第四舊自由黨たとひ侯を首領として忠實なる服從を誓ふも[#「第四舊自由黨たとひ侯を首領として忠實なる服從を誓ふも」に白丸傍点]、他の爲に迎立せられたる首領は[#「他の爲に迎立せられたる首領は」に白丸傍点]、何時其の廢黜する所と爲るを知る可からず[#「何時其の廢黜する所と爲るを知る可からず」に白丸傍点]。苟も一たび侯の指導行はれざる場合と爲れば[#「苟も一たび侯の指導行はれざる場合と爲れば」に白丸傍点]、侯は板垣伯と同一運命に遭遇するか[#「侯は板垣伯と同一運命に遭遇するか」に白丸傍点]、然らざれば自ら脱黨の擧に出でざる可からず[#「然らざれば自ら脱黨の擧に出でざる可からず」に白丸傍点]。主權自由黨に存すればなり[#「主權自由黨に存すればなり」に白丸傍点]。第五舊自由黨の政綱主義及び組織は[#「第五舊自由黨の政綱主義及び組織は」に白丸傍点]、總べて侯の理想と合致せず[#「總べて侯の理想と合致せず」に白丸傍点]。之れを改造せむとすれば[#「之れを改造せむとすれば」に白丸傍点]、其の全部を破壞せざる可からず[#「其の全部を破壞せざる可からず」に白丸傍点]。寧ろ新政黨を創立するの便宜なるに如かむや[#「寧ろ新政黨を創立するの便宜なるに如かむや」に白丸傍点]。是れ侯が舊自由黨に入るを避けて、別に立憲政友會を發起したる所以なり。
侯が新政黨を組織するに付ては、頗る經營慘憺の苦心を費やし、之れに着手するの前、先づ藩閥元老の承認を求むるの手段を執りたり。井上伯は政治上の主義に於てよりも、寧ろ私交上の關係に於て伊藤侯の政黨組織に同情を表し、以て一種の任侠的援助を侯に與へたりと雖も、他の藩閥元老は、中心實に侯の政黨組織を喜ばざりしに拘らず、猶ほ強て之れを表面より妨害したるものなかりしが如し。葢し藩閥元老の意氣漸く衰へて、復た自ら今後の難局に當らむとするの抱負あるものなく、而して現に内閣の首相たる山縣侯の如きも、最近二年間の經驗に依りて、到底政黨の勢力を無視する能はざるの趨勢を認識したれば、たとひ憲法上の解釋に於て多少伊藤侯と見を異にするものあるも、敢て成敗を賭して自家の所信を徹底せむとするの勇氣ありとも見えず。是れ終に伊藤侯の政黨組織を承認せざるを得ざる所以なり。侯は又舊自由黨の熱心なる主張を排し、故らに黨名を採らずして會名を用ゐたるは、識者より見れば、殆ど兒戯に類すと雖も、是れ一は黨と稱すれば自由黨の變名なるが如き嫌あると[#「是れ一は黨と稱すれば自由黨の變名なるが如き嫌あると」に傍点]、一は全く既成政黨の組織を踏襲するを欲せざる爲なる可し[#「一は全く既成政黨の組織を踏襲するを欲せざる爲なる可し」に傍点]、其の宣言及綱領を發表するに侯の單名を以てして、何人をも之れに加へざるは、是れ侯の最も意を用ゐたる所にして、其の理由は次の二點に歸着すべし。曰く立憲政友會は伊藤侯の創立したるものなれば[#「立憲政友會は伊藤侯の創立したるものなれば」に傍点]、其の存廢を決するは伊藤侯の自由意思にして[#「其の存廢を決するは伊藤侯の自由意思にして」に傍点]、何人も之れを掣肘するを得可からず[#「何人も之れを掣肘するを得可からず」に傍点]。曰く宣言及び綱領は侯の單意に成りたるものなれば[#「曰く宣言及び綱領は侯の單意に成りたるものなれば」に傍点]、之れを修正變更するは侯の獨裁たる可く[#「之れを修正變更するは侯の獨裁たる可く」に傍点]、隨つて立憲政友會に入るものは徹頭徹尾侯に盲從し[#「隨つて立憲政友會に入るものは徹頭徹尾侯に盲從し」に傍点]、何人も侯に容喙するを許さゞる是れなり[#「何人も侯に容喙するを許さゞる是れなり」に傍点]。此の推測の正當なるは、政友會發會式の日に發表したる會則を一讀せば更に明白なり。其の會則に據れば、總務委員幹事長以下の選任より、大會、議員總會等の召集まで、一切總裁の權能に屬すること、恰も文武百官の任命乃至議院の召集解散等、總て君主の大權に屬するが如し。而して其の總裁の就任に關して何等の規定なきを以て、立憲政友會の總裁は固より一般政黨の推選首領と其の性質を異にせり。要するに總裁は立憲政友會の主體にして、其の機關には非ず。換言せば伊藤侯の立憲政友會に總裁たるは[#「換言せば伊藤侯の立憲政友會に總裁たるは」に傍点]、猶ほ專制國に君臨せる元首の如く[#「猶ほ專制國に君臨せる元首の如く」に傍点]、其の權能は絶對にして無限なり[#「其の權能は絶對にして無限なり」に傍点]、一般の政黨首領は[#「一般の政黨首領は」に傍点]、亦黨の一機關たるに過ぎざるを以て[#「亦黨の一機關たるに過ぎざるを以て」に傍点]、先づ政黨ありて而る後に首領あれども[#「先づ政黨ありて而る後に首領あれども」に傍点]、獨り立憲政友會に在ては[#「獨り立憲政友會に在ては」に傍点]、總裁は即ち立憲政友會にして[#「總裁は即ち立憲政友會にして」に傍点]、立憲政友會ありて而る後に總裁あるに非ず[#「立憲政友會ありて而る後に總裁あるに非ず」に傍点]。報知記者伊藤侯を評して、日本政黨界のルイ十四世といひたるもの誠に當れり。
自由黨は立憲政友會に合同すと稱して解黨したり。既に合同といへば立憲政友會は對等なる位地に於て自由黨を迎へざる可からず。而も立憲政友會の組織は、個人の加入を許すと雖も、對等なる團體の合同を許さず。則ち舊自由黨が自ら合同と稱すと雖も、立憲政友會に於ては、唯だ舊自由黨員たりし各個人の加入を認むるのみ。顧ふに政友會の最大多數は舊自由黨員たるを見るに於いて、事實上政友會の大幹部は隨つて舊自由黨たる可きは無論なり。されど伊藤侯の意思は即ち政友會の意思にして、舊自由黨は之れに柔順なる服從を表するの外、何等の意思もなき勢力もなきものなりと認めざる可からず。伊藤侯が單名を以て政友會を組織するに付て用意の周到なる實に斯の如きものあり。
(二)宣言及綱領
伊藤侯の發表したる宣言の大要は、既成政黨の言動を論じて、或は憲法の原則と相扞挌するの病に陷りたりと爲し、或は國務を以て黨派の私に殉ずるの弊を致すと爲し、或は宇内の大勢に對する維新の宏謨と相容れざるの陋を形したりと爲せり。是れ舊自由黨の言動に就て特に戒飭したる意もある可く、將た他の黨派に對して非難を加へたる點もある可し。舊自由黨が之れを以て毫も自由黨に渉らずと辯じ、百方牽強附會の辭を費やしたる報告を配布したるは、唯だ滑稽の極といはむのみ。宣言の内容は三段に分つ可し。其の一は閣臣任免[#「閣臣任免」に丸傍点]の本義を説き、其の二は政黨の國家に對する關係[#「政黨の國家に對する關係」に丸傍点]を説き、其の三は政黨の規律[#「政黨の規律」に丸傍点]を説けり。閣臣任免の本義に付ては曰く、抑も閣臣の任免は憲法上の大權に屬し、其簡拔擇用、或は政黨員よりし、或は黨外の士を以てす、皆元首の自由意思に存す。而して其の已に擧げられて輔弼の職に就き、献替の事を行ふ
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