豫算が不成立となつて居るのだから」に傍点]、前年度の豫算といへば三十五年度の豫算である[#「前年度の豫算といへば三十五年度の豫算である」に傍点]。三十七年度の歳計を立つるのに三十五年度の豫算に依るといふのは[#「三十七年度の歳計を立つるのに三十五年度の豫算に依るといふのは」に傍点]、政府の大困難であつて[#「政府の大困難であつて」に傍点]、ワザ/\ソンな大困難を引受くる爲めに[#「ワザ/\ソンな大困難を引受くる爲めに」に傍点]、河野を使つて解散の口實を作る如き馬鹿な狂言をするでもなからうぢやないか[#「河野を使つて解散の口實を作る如き馬鹿な狂言をするでもなからうぢやないか」に傍点]。
 △又た西園寺侯が河野を煽てゝ遣らせた狂言に過ぎないといつて通《つう》がつて居るものあるが、コレは西園寺侯が優しい顏をして居つて、なか/\惡戯を弄ぶ人であるとの推測から來たのであらう。併しあんな常識を外れた策略は侯の柄に箝まるものでない。考へて見ると奉答文事件は侯の作戰計畫を全く打ち壞はしたので、侯は大に目的の齟齬したのを失望したに相違ない。
 △併しドンな批評があらうとも、河野は河野の爲さむとする所を決行し了せたのであるから、毀譽褒貶は度外に置くべしだ。兎に角彼れは十分自我を滿足せしめたのだから[#「兎に角彼れは十分自我を滿足せしめたのだから」に白丸傍点]、外に何も遺憾なことがなからう[#「外に何も遺憾なことがなからう」に白丸傍点]、今度のやうな機會は再び來るものではない[#「今度のやうな機會は再び來るものではない」に白丸傍点]。彼れも此に於て始めて歴史上の一人物と爲つたのである[#「彼れも此に於て始めて歴史上の一人物と爲つたのである」に白丸傍点]。(三十七年一月)

   尾崎行雄

     尾崎行雄

      學堂の英雄崇拜
 博學多識の小野東洋早く歿し、敏警聰察なる藤田鳴鶴尋で逝き、俊邁明達の矢野龍溪は、中ごろ久しく政界と絶縁して、隈門の人才、爲めに人をして寂寞を感ぜしめ、今や世間島田沼南、犬養木堂、尾崎學堂を隈門の三傑といひ、而して學堂最も當世に稱せらる※[#白ゴマ、1−3−29]凡そ新進政治家にして學堂の如く顯著なる進歩を得たるものは[#「凡そ新進政治家にして學堂の如く顯著なる進歩を得たるものは」に白丸傍点]、近來絶えて其比を見ず[#「近來絶えて其比を見ず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]彼れは啻に沼南、木堂より遙に後輩なるのみならず、現今著名なる黨人中に在ては、彼れは最も年少なるものゝ一人にして、且つ其從來の經歴よりいへば、箕浦青洲、肥塚巴月等も皆彼れの先輩にして、彼れは僅に加藤城陽、角田竹冷等と略々伯仲の間に在りしものなり※[#白ゴマ、1−3−29]然るに今や彼れは多數の先輩を凌駕して、沼南、木堂と併び稱せられ、其名聲は却つて此二人の上に出でむとするは何ぞや。
 顧ふに議會開設以前までの學堂は、唯だ夸大なる空想と[#「唯だ夸大なる空想と」に白丸傍点]、奇矯なる言動とを以て[#「奇矯なる言動とを以て」に白丸傍点]、漫に聞達を世間に求め[#「漫に聞達を世間に求め」に白丸傍点]、天下經綸の實務は一切夢中にして[#「天下經綸の實務は一切夢中にして」に白丸傍点]、獨り氣を負ひ[#「獨り氣を負ひ」に白丸傍点]、才を恃み[#「才を恃み」に白丸傍点]、好むで英雄を氣取り大政治家を擬したる腕白書生たりしに過ぎず[#「好むで英雄を氣取り大政治家を擬したる腕白書生たりしに過ぎず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]試に其事實を擧げむか、明治二十年、時の伊藤内閣の歐化政略が、激烈なる輿論の攻撃を受け、物情洶々として形勢穩かならざるや、忽焉として保安條例なるもの天來し、處士政客大抵京城の外に放逐せられ、滿城肅然たり※[#白ゴマ、1−3−29]當時學堂亦逐客の伍伴となるや、彼れ莊嚴正色人に語つて曰く、伊藤博文はナポレオン三世を學びて、クーデターを行ふ、我れは即ち當年のユーゴーたらむと※[#白ゴマ、1−3−29]是れ一時の諧謔に非ずして[#「是れ一時の諧謔に非ずして」に白丸傍点]、實に彼れの肺肝より出でたる眞面目の語なりき[#「實に彼れの肺肝より出でたる眞面目の語なりき」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]聞く者皆其抱負の不倫を笑ふと雖も、當時彼は疑ひもなく、一個愛す可き小ユーゴーたりしなり※[#白ゴマ、1−3−29]後ち彼れが英京龍動に遊ぶや、日に學者政治家と來往して氣※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]を吐く、其論往々無責任にして放縱に屬するものあり、英人某氏諭して曰く、政治家は言に小心にして、行に大膽なるを要す※[#白ゴマ、1−3−29]子夫れ少しく修養を積めよ、彼れ聲に應じて曰く、我は言行共に壯快偉大なる政治家たるを望む[#「我は言行共に壯快偉大なる政治家たるを望む」に二重丸傍点]、腐儒俗士の事は我れの知る所に非ずと[#「腐儒俗士の事は我れの知る所に非ずと」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]其の氣を負ひて自ら大とするの概以て見る可し。
 彼れが曾て報知新聞に在るや、文を屬して容易に成らず、編輯人之れを督促して急なり、彼れ大聲叱して曰く、我れは未來の立憲大臣たらむと期するもの[#「我れは未來の立憲大臣たらむと期するもの」に二重丸傍点]、何ぞ數々として我れを累はすの太甚しきやと[#「何ぞ數々として我れを累はすの太甚しきやと」に二重丸傍点]、是れ猶ほ昔者ジスレリーが、メルボルン公の、『足下は政論家と爲て何を爲さむとするか』と問へるに答へて、我れは唯だ英國の總理大臣たらむとするのみといへると一對の大言なり※[#白ゴマ、1−3−29]此れより世人彼れを呼て未來の立憲大臣と稱す※[#白ゴマ、1−3−29]故に未來の立憲大臣といへば[#「故に未來の立憲大臣といへば」に白丸傍点]、世間直に尾崎學堂を聯想せざる莫し[#「世間直に尾崎學堂を聯想せざる莫し」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]顧ふに彼は夙にジスレリーの人物に私淑し、曾て『經世偉勳』を著はして、ジスレリーの傳を記す、其立憲大臣の豫告を爲したるもの安ぞ經世偉勳中の一節を換骨脱胎せるものに非らざるなきを知らむや。
 彼れが曾て東京府會の議員たるや、例に依りて放言高論動もすれば議場を惱殺せしめんとす※[#白ゴマ、1−3−29]蓋し府會の議事は、瑣々たる地方行政の問題にして、天下經綸の大問題に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]然るに彼れは常に立憲大臣の心を以て、堂々たる議論を試みんとするの癖あり※[#白ゴマ、1−3−29]當時の府會議長たる沼間守一深く之れを患へ、務めて彼れの氣※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]を抑へむとしたるに拘らず、彼れは傲然として飽くまで沼間と頡頏せむとせり※[#白ゴマ、1−3−29]以て其抱負の凡ならざるを諒す可し。
 彼れが自負心強く[#「彼れが自負心強く」に白丸傍点]、夸大の空想に耽り[#「夸大の空想に耽り」に白丸傍点]、莊嚴なる英雄の舞臺に神迷するの状は[#「莊嚴なる英雄の舞臺に神迷するの状は」に白丸傍点]、亦明かに彼れの風采にも躍然たり[#「亦明かに彼れの風采にも躍然たり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]其昂々焉として鷹揚なる處、其冷靜にして容易に笑はざる處、其動もすれば氣を以て人を壓せむとする處、皆彼れが氣象の外表たらざる莫し※[#白ゴマ、1−3−29]然れども彼れ不幸にして、如何なる時代の英雄にも大抵普通なる特質を其風采に缺けり。英雄の特質とは何ぞや曰く磊落粗朴の野性[#「磊落粗朴の野性」に白丸傍点]、曰く道理に拘泥せずして盲進する獸力[#「曰く道理に拘泥せずして盲進する獸力」に白丸傍点]是れなり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れの衣貌は寧ろワザとらしき躰裁を示すに非ずや※[#白ゴマ、1−3−29]彼れは一髮を櫛るにも、香水と鏡臺とを要すといふに非ずや、其蝮蛇の如き眼光もて四方を睥睨するの、如何に注意深き神經質を表するかを見よ※[#白ゴマ、1−3−29]其一言一句を苟もせずして勉て多辯の弊を避くるの、如何に小心翼々として或る點に謹愼なるかを見よ、單に彼れの風采よりいへば、彼れは虚飾にして異を衒ふの癖あるものゝ如く[#「彼れは虚飾にして異を衒ふの癖あるものゝ如く」に白丸傍点]、即ち衣冠の英雄にして裸躰の英雄に非らざるの嫌あるを免かれず[#「即ち衣冠の英雄にして裸躰の英雄に非らざるの嫌あるを免かれず」に白丸傍点]。此に彼れの性格を判斷せしむる面白き一事實あり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れが前年井上條約案に反對運動を試み居るの際なりき※[#白ゴマ、1−3−29]一日故後藤伯の馬車を借り、俄に立憲大臣に假裝して、意氣揚々と早稻田の大隈邸に乘り込み、以て衆人に一驚を喫せしめて自ら喜びたること是れなり※[#白ゴマ、1−3−29]何ぞ其れポンチ畫中の滑稽人物に近きの太甚しきや※[#白ゴマ、1−3−29]斯くの如き風采は、決して英雄普通の性質と兩立せざるものなり。
 彼れは常に矢野龍溪に兄事し、龍溪を以て大臣以上の人物なりと尊崇し、其人品を評して少なくとも當代一流といひたるものなり※[#白ゴマ、1−3−29]料るに彼れ龍溪を自己の模型となして之れに陶鑄せられんと欲するの餘り、遂に一個の小龍溪と爲りたるもの歟、然れども今や彼れは龍溪よりも大なる成功あり、多望なる前途を有するのみならず、比較的年少の身を以て多數の先輩を凌駕し、現に進歩黨中最も有力なる領袖と爲り、彼れの豫期せる立憲大臣の位地も遠からずして彼れを迎へんとするに至れるは何ぞや※[#白ゴマ、1−3−29]請ふ少しく余をして彼れが成功の原因を説かしめよ。

      學堂の成功
 學堂が成功の一原因は、政治家の凖備と修養とを怠らざる[#「政治家の凖備と修養とを怠らざる」に二重丸傍点]是れなり※[#白ゴマ、1−3−29]顧ふに藩閥の諸老は、大抵立憲大臣としての伎倆なく、取て代る可きの後進政治家も、未だ經國の大才と認む可きもの實際に出現せずして、到る處夜郎自ら大なりとするの斗※[#「竹かんむり/悄のつくり」、第3水準1−89−66]漢が、紛々として互ひに短長を爭ひ、雌雄を問ふを見るのみ※[#白ゴマ、1−3−29]稱して政治家といふと雖も、未だ知らず、政治家たるの準備と素養あるもの果して幾人ぞ※[#白ゴマ、1−3−29]夫れ經國の大才は難し※[#白ゴマ、1−3−29]學堂亦嘗て此れに當るの實力を世間に示したることあらず※[#白ゴマ、1−3−29]故に世間唯だ彼れを大言壯語の虚才として、寧ろ之れを譏笑する多しと雖も、彼れは大言壯語を以て世間を虚喝すると同時に[#「彼れは大言壯語を以て世間を虚喝すると同時に」に白丸傍点]、其平生の抱負を苟且にせずして[#「其平生の抱負を苟且にせずして」に白丸傍点]、孜々として大臣學を修め[#「孜々として大臣學を修め」に白丸傍点]、英雄の課業を研究して休まざるの熱心あり[#「英雄の課業を研究して休まざるの熱心あり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]此熱心ありて而る後、大言壯語するときは、即ち其大言壯語も亦終に徒爾ならざる可きを信ずるに足る。
 彼れは斯くの如き抱負と熱心とを以て帝國議會に入れり※[#白ゴマ、1−3−29]其言動豈尋常一樣なるを得むや※[#白ゴマ、1−3−29]議會を傍聽する者は、必ず先づ異色ある一代議士を議場に目撃せむ※[#白ゴマ、1−3−29]此代議士は、常に黒紋付の羽織に純白の太紐を結び、折目正しき仙臺平の袴を着けて、意氣悠揚として壇に登るを例となす※[#白ゴマ、1−3−29]是れ衆議院の名物尾崎學堂なり※[#白ゴマ、1−3−29]人は未だ其發言を聞かざるに[#「人は未だ其發言を聞かざるに」に白丸傍点]、先づ其態度の莊重なるに喫驚し[#「先づ其態度の莊重なるに喫驚し」に白丸傍点]、以爲らく未來の立憲大臣たるものゝ態度正に爾かく莊重なるべしと[#「以爲らく未來の立憲大臣たるものゝ態度正に爾かく莊重なるべしと」に
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