る如才なき立ち※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りを爲したる人なり、而も此れと同時に、子は自由黨と閣下の内閣とを提携せしむるが爲めに、亦た政治的桂庵として周旋甚だ勉めたりしを以つて、今も尚ほ双方の連鎖たる位地に在るは衆目の視る所なり、青木氏は初じめ自由黨に入黨の申込を爲したるほどの人にして、入閣の際俄かに其申込を撤囘し、以つて大に自由黨の感情を破りたりと雖もさりとて自由黨と全く關係を絶てりと謂ふ可からざるは無論なり、西郷侯は憲政黨内閣時代に於て、既に岡崎邦輔氏の媒介に依りて星亨氏と相識り、爾來横濱海面埋立事件にも、市街鐵道問題にも、常に星氏の秘密協議を受けて、次第に相接近し來れるものなり、即ち此の三閣僚は閣下の爲に、屡絶えむとしたる自由黨の提携を維持し得て今日に到りたるに於て、閣下にして單に帝國黨を頼みて自由黨を無視するが如き行動に出でむか、閣下は先づ此の三閣僚と併び立つこと能はざるに至る可きは自然の傾向なり、而して閣下の行動は往々之に類するものあるを以て、今や自由黨は漸く閣下の内閣に向て鼎の輕重を問はむとするの意向を表現したるに非ずや、所謂る局面展開論の如き實に此の意向の表現に外ならじ。
 相公閣下[#「相公閣下」に傍点]、閣下の最大謬見は[#「閣下の最大謬見は」に傍点]、唯だ議院政略を以て能事と爲し[#「唯だ議院政略を以て能事と爲し」に傍点]、金錢若くは其の他の利益を懸けて自由黨を操縱せむとしたるに在り[#「金錢若くは其の他の利益を懸けて自由黨を操縱せむとしたるに在り」に傍点]、顧ふに現時の自由黨は殆ど腐敗の極度に達したるに於て、閣下の議院政略が其弱點に投じて十二分の成功ありしは、我輩と雖も亦之を認ざるに非ず、さりながら自由黨員の中には亦多少時勢の要を識る者なきに非ざるが故に、單に閣下の内閣に盲從して永く藩閥の奴隷たるに滿足せざる人物亦少なきに非ず、彼等は閣下と共に到底立憲政治の實効を擧ぐるに足らざるを自覺し、別に新機軸を出だして政局の進轉を計らむとせり、是れ閣下の内閣が漸く内部の動搖を始めたる所以なり。

      ※[#始め二重括弧、1−2−54]二十一※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 山縣相公閣下、閣下の内閣が近時漸く動搖し始めたるは疑ひもなき事實にして、帝國黨の代表力たる清浦曾禰の兩氏は、專ら閣下の參謀として内閣の政略を指導するの位地を占め、閣下の屬僚たる都筑、平田、安廣等の頑夢派と相策應して、自由黨を牽制するの運動に着手しつゝあるは、亦既に公然の秘密なり、我輩の聞く所に依れば、彼等は閣下に向て總べて自由黨の要求を峻拒す可しと勸告したり、此れが爲めに自由黨と提携を絶つに至るも復た畏るゝに足らずと説きたり、第十五議會までには、帝國黨と中立派とを連合せしめ、更に進歩自由の兩黨代議士中より幾多の醜漢を買收せば、優に多數を議會に制するに得ること掌を反へすよりも易しと進言したりといふ、其の無稽無謀の太甚しき、殆ど閣下を死地に陷ゐるゝにあらずむば止まざるものなるに拘らず、閣下の意思稍※[#二の字点、1−2−22]彼等の献策に動かさるるの傾向ありといふは何ぞや、彼等は以爲らく、第十五議會の形勢にして若し閣下に利非ずとせむか、即ち斷然議會を解散し改正選擧法に依りて進歩自由の兩黨と爭ひ大に選擧干渉を行ふて多數の御用代議士を選出せしむること敢て難しと爲さず、而も尚ほ不幸にして議會の多數を制すること能はずむば、内閣は此の時を以て始めて總辭職の擧に出づるも未だ晩からず、而して是れ實に立憲政治家の責任に背かざるの名を得るに庶幾しと、意氣頗る正大なるに似たりと雖も、斯くの如きは主義あり政綱ある政黨内閣に於て言ふ可く、單に閣下の内閣を維持して其の恩惠の下に生存せむとする屬僚等の言ふ可き所に非ざるを奈何せむや、さりながら閣下亦自ら其運命の窮せるものあるを知らざる可からず、葢し自由黨が今日まで閣下に盲從したるは[#「葢し自由黨が今日まで閣下に盲從したるは」に白丸傍点]、唯だ伊藤侯の起たざるを以てのみ[#「唯だ伊藤侯の起たざるを以てのみ」に白丸傍点]、苟も侯にして自ら起つて自由黨を率ひば[#「苟も侯にして自ら起つて自由黨を率ひば」に白丸傍点]、閣下の内閣は鎧袖一たび觸れて忽ち倒れたりしや久しきなり[#「閣下の内閣は鎧袖一たび觸れて忽ち倒れたりしや久しきなり」に白丸傍点]、而も侯の容易に起つの色なきは、自由黨の組織が侯の理想に適合せざるが爲にして、自由黨にして眞に能く侯の理想を攝取するの内容を有せば、侯或は自由黨に入りて其の首領たるを辭するものに非じ、但だ自由黨の内容は、侯の理想を攝取するには餘りに雜駁にして、且つ餘りに彈力に富めり、案ずるに侯が政黨の規律節制を説くは太だ善しと雖も、是れ單に外部より訓練し教育し得可きものに非ずして、自ら其の黨人と爲りて内部より改造せざる可からざるものたり、侯は何が故に自ら自由黨に入りて其の理想を實行するを勉めざる乎、是れ頗る怪む可しと雖も、實は自由黨が到底侯の理想を攝取するの受容力を有せざればなり、さりながら侯も自由黨も、閣下の内閣に對しては均しく結局の利害を異にするものあるに於て、此の一點に於て常に相接近するの關係を保持して、共に局面展開の時機を待てり、局面の展開は如何なる裝姿を以て現はれ來る可きかは一個の疑問なれども、其の現状維持に倦みて局面の展開を望むの心は侯も自由黨も亦同一なり、而して閣下の屬僚等は、強て現状を維持せむとして無稽無謀の擧を閣下に慫慂するを見る、是れ豈伊藤侯と自由黨との共に隱忍して已む能はざる時期ならずや、閣下尚ほ首相の椅子に緊着して離れざらむとする乎。

      ※[#始め二重括弧、1−2−54]二十二※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 山縣相公閣下、世に傳ふ、頃ろ自由黨は閣下に向て内閣の三四脚を要求し、若し聽かれずむば提携を謝絶して内閣に反對するの決意を示したりと、是れ恐らくは局面展開の第一着手たる可し、さりながら閣下にして此の要求に應ぜむとせば、先づ閣下に最も親近なる閣僚を引退せしめざる可らず、今や此等の閣僚は、自己の運命を迫害せむとする自由黨に對して防禦の策を講じ、閣下の屬僚と倶に極力現状を維持するの成案を具して閣下に迫りつゝあり、此の成案は固より閣下を死地に陷ゐるゝものなりと雖も、自由黨の要求とても亦閣下を窘窮せしむるの毒計たるが故に、閣下は殆ど進退維れ谷まれるの位地に在りと謂ふ可し。
 抑も自由黨が果して既に斯くの如き要求を閣下に提供したるや否や、たとひ既に之れを提供したりとするも、是れ自由黨多數の冀望なりや否やに付ては、我輩未だ輙すく明言し能はざる所なりと雖も、自由黨が之れに類するの運動を開始しつゝあるの事實は斷じて疑ふ可くもあらじ、或は曰く末松謙澄男主として内閣割込の議を唱へ、自ら閣下に向て談判の任に當れりと、末松男が内閣改造の張本人たるは、我輩の甚だ信ずる能はざる所にして、若し彼れにして此の議を唱へたりとせば、是れ必らず伊藤侯の承認を得たる上の事ならざる可からず、さりながら伊藤侯は决して現在の自由黨と意氣相許すものに非ず、隨つて自由黨にして侯を擁立せむとせば、大に其の内容を變更して、更に侯の理想に適合せる新衣裳を着用せざる可からず、然るに現在の自由黨は、其の内容頗る雜駁不規律にして、動もすれば一二の無頼漢に致されて、政治上の罪惡を犯せること尠なからず、而して其の罪惡の主動力として目せらるゝものは現に總務委員の一人たる星亨氏なるに於て、自由黨は先づ彼れの專制政治を離れたる後に非ずむば、到底伊藤侯を起して自由黨の首領たらしむるを得可からず、我輩は伊藤侯を認めて眇たる一の星亨を畏るものなりとも信ずるものに非ずと雖も、自由黨が彼れの專制的手腕に左右せられて之れを奈何ともする能はざるの醜態あるは、既に天下公衆の認識する所たり、自由黨の腐敗するや久し、我輩は其の原因を以て決して一二無頼漢の非行に歸するものに非ず、さりながら現時の自由黨が[#「さりながら現時の自由黨が」に傍点]、星亨氏に掻き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]されて其の腐敗の區域を擴張したるは著明の顯象にして[#「星亨氏に掻き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]されて其の腐敗の區域を擴張したるは著明の顯象にして」に傍点]、特に閣下の内閣が彼れの野性を利用して遂に自由黨を操縱し[#「特に閣下の内閣が彼れの野性を利用して遂に自由黨を操縱し」に傍点]、以て自由黨をして腐敗の極に達せしめたるは世間何人も之れを否認するものある可からず[#「以て自由黨をして腐敗の極に達せしめたるは世間何人も之れを否認するものある可からず」に傍点]、是れ伊藤侯が局面展開の必要を認めたると同時に、尚ほ容易に自由黨の爲めに擁立せられざる所以なり、然らば星亨氏は何人ぞ、我輩少しく次に其の性格を説かざる可からず。

      ※[#始め二重括弧、1−2−54]二十三※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 山縣相公閣下、閣下は星亨氏を以て如何なる人物なりと爲す乎、彼は閣下の内閣を成立せしめたるに付て間接の功あり、自由黨を閣下の内閣に盲從せしめたるに付て直接の功あり、而して今や彼は内閣改造の技師長として、局面展開の魔術家として、動もすれば閣下を威嚇し、強迫し、若くは誘惑して、先づ其の怪腕を現状打破に着けむとするの野心あり、夫の自由黨が政權分配を提携の報償として、内閣の三四脚を要求したりといふ如きは、又安んぞ其の策源の彼れが帷幄より出でざるなきを知らむや。
 若し理を以て之れを論ずれば、自由黨は決して閣下に向て政權分配を要求するの權利あるものに非ず[#「自由黨は決して閣下に向て政權分配を要求するの權利あるものに非ず」に傍点]、何となれば最初より無條件提携を約して[#「何となれば最初より無條件提携を約して」に傍点]、後日に其の報償を要求するは[#「後日に其の報償を要求するは」に傍点]、是れ分明に詐僞を自白するものなればなり[#「是れ分明に詐僞を自白するものなればなり」に傍点]、さりながら閣下と自由黨との提携は本來主義政見の一致より成りしにも非ず、又肝膽相許し意氣相投じたる結果にも非ずして、唯だ一時の利害に依りて偶然相合したるに過ぎざるを以て、其の提携の亦利害に依りて破るゝに至るも自然の勢なりと謂はざる可からず、而して星亨なる人物は實に自由黨の代表者として、前には閣下と共に詐僞の政治的約束を締結し、後には謂れなき報償を強請して閣下を陷擠せむと試むるの主謀者なり。
 彼は曾て剛腹破廉耻の議長として衆議院を除名せられたるほどの不名譽の人物なり、今こそ自由黨の專制君主として、凶炎赫灼たれども、是れ自由黨の無能力なるが爲にして、必らずしも彼れの資望獨り高きが故に非ず、現に憲政黨内閣時代に於て、時の自由派大臣は、彼れが外務大臣たらむとする野心を牽制せむとして、伊東巳代治男を外務大臣候補者に推薦したる事實ありしは、豈其の明白なる證據に非ずや、而も一朝憲政黨内閣倒れて閣下の内閣起るに及で、彼は恰も風雲の際會を得たる惡龍の如く、遽かに飛舞騰躍して自由黨を惑亂し、曾て自由黨の中堅たる土佐派すらも殆ど屏息して彼れの指命を受くるの止むを得ざるに至る、亦憐まざる可けむや。
 世間或は彼れを時代の權化として、其の技倆手腕に畏服するものあり、我輩を以て彼れを觀れば[#「我輩を以て彼れを觀れば」に白丸傍点]、彼は高等長脇差の隊長にして[#「彼は高等長脇差の隊長にして」に白丸傍点]、僅に政治家の外套を着けたる一個の野人のみ[#「僅に政治家の外套を着けたる一個の野人のみ」に白丸傍点]、其の最も長ずる所は[#「其の最も長ずる所は」に白丸傍点]、唯だ善惡是非を問はずして然諾を實行するの大膽即ち是れなり[#「唯だ善惡是非を問はずして然諾を實行するの大膽即ち是れなり」に白丸傍点]、彼れが政治上の罪惡を犯したるも此に在ると同時に、彼れが黨與の歡心を得るも亦此に在り、而して政治道徳の問題の如きに至ては、彼れ固より冷眼を以て之れを度外に附したり、是れ其の爲す所一も常
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