斷の一派にして[#「藩閥武斷の一派にして」に二重丸傍点]、彼の藩閥の私生兒たる吏黨が[#「彼の藩閥の私生兒たる吏黨が」に二重丸傍点]、民黨と聯合して極力伊藤内閣の攻撃を事としたるは[#「民黨と聯合して極力伊藤内閣の攻撃を事としたるは」に二重丸傍点]、適々以て其由る所を察し得可し[#「適々以て其由る所を察し得可し」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]或は伊藤内閣が二囘までも議會を解散したるの擧を非立憲的と爲して、大に之れを論責するものあり※[#白ゴマ、1−3−29]余も亦敢て侯の解散手段を贊するものに非ずと雖も、是れ勢の致す所にして侯の本意には非らず[#「是れ勢の致す所にして侯の本意には非らず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]若し當時の民黨より之れを觀れば[#「若し當時の民黨より之れを觀れば」に白丸傍点]、侯が解散してまでも内閣を維持したるは[#「侯が解散してまでも内閣を維持したるは」に白丸傍点]、單に民黨を苦めたるに似たりと雖も[#「單に民黨を苦めたるに似たりと雖も」に白丸傍点]、其實之れが爲めに最大失望を感じたるものは[#「其實之れが爲めに最大失望を感じたるものは」に白丸傍点]、寧ろ藩閥及び藩閥を助くるの吏黨にして[#「寧ろ藩閥及び藩閥を助くるの吏黨にして」に白丸傍点]、民黨の爲めには[#「民黨の爲めには」に白丸傍点]、解散は却つて幸福なりき[#「解散は却つて幸福なりき」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば[#「何となれば」に二重丸傍点]、侯にして若し解散の代りに辭職を行はゞ[#「侯にして若し解散の代りに辭職を行はゞ」に二重丸傍点]、侯の後を受けて内閣を組織するものは[#「侯の後を受けて内閣を組織するものは」に二重丸傍点]、必らず民黨に非ずして藩閥の武斷派なる可ければなり[#「必らず民黨に非ずして藩閥の武斷派なる可ければなり」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]之れを聞く、第二伊藤内閣の將に成らむとするや、陸奧伯其親近に語て曰く、民黨たるものは宜しく其擧動を愼み[#「民黨たるものは宜しく其擧動を愼み」に傍点]、漫に吏黨の激論に煽動せられて[#「漫に吏黨の激論に煽動せられて」に傍点]、我れより解散を求むるの愚を爲す可からず[#「我れより解散を求むるの愚を爲す可からず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]是れ民黨の不利益なりと[#「是れ民黨の不利益なりと」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]則ち伯が伊藤侯の謀士として自由黨と提携せしめたるも[#「則ち伯が伊藤侯の謀士として自由黨と提携せしめたるも」に白丸傍点]、其意の藩閥控制に在るや論なきのみ[#「其意の藩閥控制に在るや論なきのみ」に白丸傍点]、伊藤侯が藩閥を利用すると共に、又之れを控制せむと勉めたるは既に斯くの如し※[#白ゴマ、1−3−29]故に其信任する所の人物も、亦大抵藩閥に敵視せらるゝものか、若くば藩閥以外の出身者ならざるなく、例へば、故陸奧伯の如き伊東末松兩男の如き、渡邊子金子氏の如き、以て見る可し※[#白ゴマ、1−3−29]果して然らば[#「果して然らば」に白丸傍点]、今囘の大英斷が亦藩閥打破の目的より出でたると謂ふも豈余が一個の臆斷ならんや[#「今囘の大英斷が亦藩閥打破の目的より出でたると謂ふも豈余が一個の臆斷ならんや」に白丸傍点]。
未定數
伊藤侯は既に藩閥を打破して舊勢力と全く分離せり※[#白ゴマ、1−3−29]知らず侯の未來は如何※[#白ゴマ、1−3−29]一見せば侯の現在の位地は[#「一見せば侯の現在の位地は」に傍点]、孤立の二字を以て[#「孤立の二字を以て」に傍点]、善く之れを説明するを得可し[#「善く之れを説明するを得可し」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯は舊勢力と分離して[#「侯は舊勢力と分離して」に傍点]、未だ新勢力を發見せず[#「未だ新勢力を發見せず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]曾て侯と提携したる自由黨は[#「曾て侯と提携したる自由黨は」に傍点]、今や憲政黨の名の下に抱合せられて[#「今や憲政黨の名の下に抱合せられて」に傍点]、侯と反對の方面に立ち[#「侯と反對の方面に立ち」に傍点]、而して侯に依て政黨を組織せむとするものは[#「而して侯に依て政黨を組織せむとするものは」に傍点]、唯だ憲政黨の勢力に辟易して殆ど爲す所を知らず[#「唯だ憲政黨の勢力に辟易して殆ど爲す所を知らず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯の現在の位地は實に孤立なりと謂ふ可し[#「侯の現在の位地は實に孤立なりと謂ふ可し」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]されど余を以て之れを觀るに、侯の位地は未定數にして必らずしも孤立ならず[#「侯の位地は未定數にして必らずしも孤立ならず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]憲政黨は大なりと雖も[#「憲政黨は大なりと雖も」に白丸傍点]、其組織未だ堅確ならず[#「其組織未だ堅確ならず」に白丸傍点]、其主義未だ明白ならざるに於て[#「其主義未だ明白ならざるに於て」に白丸傍点]、一朝變を生ずれば[#「一朝變を生ずれば」に白丸傍点]、更に如何なる現象を生出せざるも保す可からず[#「更に如何なる現象を生出せざるも保す可からず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]否其分裂の機は漸く※[#「にんべん+福のつくり」、第4水準2−1−70]促し來れり[#「否其分裂の機は漸く※[#「にんべん+福のつくり」、第4水準2−1−70]促し來れり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]憲政黨一たび分裂すれば[#「憲政黨一たび分裂すれば」に白丸傍点]、舊自由黨が再び侯を擁するの必要あるに至るは自然の情勢にして[#「舊自由黨が再び侯を擁するの必要あるに至るは自然の情勢にして」に白丸傍点]、侯は唯だ其機會の到來するまで孤立の位置に在るのみ[#「侯は唯だ其機會の到來するまで孤立の位置に在るのみ」に白丸傍点]。
凡そ今日の所謂る政黨なるものは、主義政綱に依りて進退するに在らずして、唯だ利害に依て分合するものたるに過ぎず※[#白ゴマ、1−3−29]伊藤侯が位地の未定數なるは[#「伊藤侯が位地の未定數なるは」に白丸傍点]、蓋し政黨の主義政綱未だ分別せざるが爲めなり[#「蓋し政黨の主義政綱未だ分別せざるが爲めなり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]顧ふに政治家の世に立つや、先づ自ら其主義政綱を發表して、同志を天下に求むる固より可なりと雖も、今日の如く未だ主義政綱を以て爭ふの進境に達せざるの政界に在て[#「今日の如く未だ主義政綱を以て爭ふの進境に達せざるの政界に在て」に白丸傍点]、自ら主義政綱を發表して同志を天下に求むるは[#「自ら主義政綱を發表して同志を天下に求むるは」に白丸傍点]、恐らくは侯の迂濶とする所なる可し[#「恐らくは侯の迂濶とする所なる可し」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]况むや侯は大隈板垣伯等の如く[#「况むや侯は大隈板垣伯等の如く」に白丸傍点]、政黨上の歴史を有せざるが故に[#「政黨上の歴史を有せざるが故に」に白丸傍点]、今日直に政黨を組織せむとする如きは[#「今日直に政黨を組織せむとする如きは」に白丸傍点]、到底言ふ可くして行ふ可からざるの談なるに於てをや[#「到底言ふ可くして行ふ可からざるの談なるに於てをや」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]若し侯の中心の冀望を言はゞ、此際永く、政界を退隱せむと欲するに切なるやも知る可からず※[#白ゴマ、1−3−29]されど侯を叢圍せる門下生は[#「されど侯を叢圍せる門下生は」に傍点]、决して侯の退隱を許さゞるの事情あり[#「决して侯の退隱を許さゞるの事情あり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯は此等の門下生の爲めに[#「侯は此等の門下生の爲めに」に傍点]、勢ひ再度の出馬を爲さゞる能はざるは無論なるを以て[#「勢ひ再度の出馬を爲さゞる能はざるは無論なるを以て」に傍点]、侯の清國より歸朝するの日は[#「侯の清國より歸朝するの日は」に傍点]、乃ち政界復た一變動を見るの時なりと知らざる可からず[#「乃ち政界復た一變動を見るの時なりと知らざる可からず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯の運動の妙所は[#「侯の運動の妙所は」に傍点]、虚無縹緲の間に於て[#「虚無縹緲の間に於て」に二重丸傍点]、巧みに最後の勝利を制するに在り[#「巧みに最後の勝利を制するに在り」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯が明治十四年來藩閥控制の術數を用ゐたるも[#「侯が明治十四年來藩閥控制の術數を用ゐたるも」に白丸傍点]、世間啻に其然るを知らざるのみならず[#「世間啻に其然るを知らざるのみならず」に白丸傍点]、藩閥自身も亦然るを知らずして獨り其術中に陷りて怪まず[#「藩閥自身も亦然るを知らずして獨り其術中に陷りて怪まず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯が自由黨と提携したるに及でも[#「侯が自由黨と提携したるに及でも」に白丸傍点]、明かに政黨内閣を主張せずして而も次第に今日の時局を導くの動機を啓きたり[#「明かに政黨内閣を主張せずして而も次第に今日の時局を導くの動機を啓きたり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯は曾て其持説を確言したることなきも[#「侯は曾て其持説を確言したることなきも」に白丸傍点]、其實際に施設したる例少なからず[#「其實際に施設したる例少なからず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯も亦一代の政治家なるかな[#「侯も亦一代の政治家なるかな」に白丸傍点]。(三十一年九月)
伊藤侯は黨首の器なるや
伊藤侯が頃ろ政黨改造の意見を發表して、既成政黨の弊害を矯正せんとするや、侯の機關紙たる『日々新聞』は、侯の目的、模範政黨を作るに在りと暗示し、憲政黨の機關紙たる『人民新聞』は、侯の位地を論じて、憲政黨に入るの侯の志に合ふ可きを諷告したり※[#白ゴマ、1−3−29]侯果して憲政黨に入りて其首領たらむと欲する乎。或は既成政黨以外、新たに同志を糾合して模範政黨なるものを作らむとする乎※[#白ゴマ、1−3−29]是れ恐くは政治的數學の例題ならむ※[#白ゴマ、1−3−29]近かき未來の政局を打算するが爲には、先づ此例題を解决せざる可からず。
然れども憲政黨及び其他の伊藤崇拜者が[#「然れども憲政黨及び其他の伊藤崇拜者が」に白丸傍点]、果して能く伊藤侯の人物を領解したるや否や[#「果して能く伊藤侯の人物を領解したるや否や」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]試に問はむ[#「試に問はむ」に白丸傍点]、侯は黨首の器を備へたる人物なる乎[#「侯は黨首の器を備へたる人物なる乎」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]具體的にいへば[#「具體的にいへば」に白丸傍点]、侯はグラツドストンたるを得る乎[#「侯はグラツドストンたるを得る乎」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]サリスバリーたるを得る乎と[#「サリスバリーたるを得る乎と」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]凡そ黨首に最も必要なる資格は、國民を指導して國民を專制せざるに在り[#「國民を指導して國民を專制せざるに在り」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]但國民を指導すといふは、國民を煽動するの謂に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]衆愚の感情を迎合し、一時の俗論を鼓吹し、己れの信ぜざる所を語り、我が欲せざる所を行ひ、詐謀僞術を挾みて強て多數の好尚に阿ねるは、是れ煽動家の事のみ※[#白ゴマ、1−3−29]余が所謂る黨首に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]マツヂニー曾て多數政治に定義を與へて曰く、多數政治とは[#「多數政治とは」に白丸傍点]、最も聰慧にして最も善良なる首領の指導に依れる政治なりと[#「最も聰慧にして最も善良なる首領の指導に依れる政治なりと」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]故に黨首は其智見判斷に於て固より一代に超絶するものたる可く、則ち國民の未だ知らざる所を知り、國民の未だ見ざる所を見るの賢明なる人物ならざる可からずと雖も、此れと
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