閥同盟の中堅たりしもの[#「以て能く非藩閥同盟の中堅たりしもの」に傍点]、亦大隈伯に依て其勢力を統一せられたるに由れり[#「亦大隈伯に依て其勢力を統一せられたるに由れり」に傍点]、二十九年進歩黨の成立と共に、改進黨は直に解黨して其一分子と爲りと雖ども、是れ改進黨の解黨に非ずして[#「是れ改進黨の解黨に非ずして」に白丸傍点]、寧ろ改進黨の膨脹したるものと謂ふ可し[#「寧ろ改進黨の膨脹したるものと謂ふ可し」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]適切にいへば[#「適切にいへば」に白丸傍点]、大隈伯の發達したる現象に過ぎず[#「大隈伯の發達したる現象に過ぎず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば、此進歩黨は大隈伯を以て事實上の首領と爲し、一切の行動大抵大隈伯の指揮より出でたればなり※[#白ゴマ、1−3−29]進歩黨は由來理窟屋の集合にして、特に或る一派は久しく大隈伯を敵視したるものなりき※[#白ゴマ、1−3−29]而も其一旦進歩黨の名の下に大隈伯と接近するに及で[#「而も其一旦進歩黨の名の下に大隈伯と接近するに及で」に白丸傍点]、自然に大隈伯の意見に同化せられ[#「自然に大隈伯の意見に同化せられ」に白丸傍点]、自然に大隈伯に服從して毫も疑はざるに至りしは何ぞや[#「自然に大隈伯に服從して毫も疑はざるに至りしは何ぞや」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]是れ豈伯が黨首として最も必要なる同化力を有する爲ならずや[#「是れ豈伯が黨首として最も必要なる同化力を有する爲ならずや」に白丸傍点]。
今や其進歩黨は更に自由黨と合併して憲政黨と爲り、大隈伯を總理として内閣を組織したるに於て、伯にして苟も偉大の同化力を有せば其憲政黨を同化して大隈黨たらしむること、猶ほ進歩黨を同化したるが如くなる可きも憲政黨は果して大隈伯に同化せらる可きや否や※[#白ゴマ、1−3−29]大隈伯は果して憲政黨までも同化するの力量あるや否や※[#白ゴマ、1−3−29]是れ確かに目下に横はれる試驗問題なり。
大隈伯と憲政黨
憲政黨は成立日尚ほ淺くして、未だ混沌の境を出づる能はず※[#白ゴマ、1−3−29]况むや進歩自由兩派の舊形依然として實存するに於てをや※[#白ゴマ、1−3−29]されど余は憲政黨の爲めに[#「されど余は憲政黨の爲めに」に傍点]、單に形式的統一を望まず[#「單に形式的統一を望まず」に傍点]、若し強て形式的統一を求めむとせば[#「若し強て形式的統一を求めむとせば」に傍点]、之れを合議體と爲して多數決政治を行ひ[#「之れを合議體と爲して多數決政治を行ひ」に傍点]、總べて黨議を以て黨員を節制すると共に[#「總べて黨議を以て黨員を節制すると共に」に傍点]、内閣をして亦[#「内閣をして亦」に傍点]、黨議に服從せしめ若し内閣にして之れに服從せずむば[#「黨議に服從せしめ若し内閣にして之れに服從せずむば」に傍点]、直に其閣員を黨籍より除名して[#「直に其閣員を黨籍より除名して」に傍点]、内閣と政黨との關係を絶つまでの事なり[#「内閣と政黨との關係を絶つまでの事なり」に傍点]、されど是れ決して政黨の本色に非らず[#「されど是れ決して政黨の本色に非らず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]政黨には必らず統一の中心たる首領を要し[#「政黨には必らず統一の中心たる首領を要し」に白丸傍点]、首領は名義上の首領にあらずして[#「首領は名義上の首領にあらずして」に白丸傍点]、實權を有する首領ならざる可からず[#「實權を有する首領ならざる可からず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]實權ある首領とは[#「實權ある首領とは」に二重丸傍点]、則ち黨員を同化し得るの首領を謂ふ[#「則ち黨員を同化し得るの首領を謂ふ」に二重丸傍点]、同化の結果は[#「同化の結果は」に二重丸傍点]、首領の專制と爲り[#「首領の專制と爲り」に二重丸傍点]、黨員の盲從と爲りて主權首領に歸す[#「黨員の盲從と爲りて主權首領に歸す」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]則ち形式上の統一と全く其根本的意義を異にするものなり[#「則ち形式上の統一と全く其根本的意義を異にするものなり」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]英國政黨内閣の妙處は、實に首領專制、黨員盲從の慣例能く行はるゝが爲めならずや。
されど此慣例は黨規を以て定む可からず[#「されど此慣例は黨規を以て定む可からず」に傍点]、又首領と黨員との約束に依て成立す可からず[#「又首領と黨員との約束に依て成立す可からず」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]唯だ一大同化力ある人物ありて[#「唯だ一大同化力ある人物ありて」に白丸傍点]、自然に黨員を服從せしめ[#「自然に黨員を服從せしめ」に白丸傍点]、以て自然に全黨を左右するの實權を握るに在るのみ[#「以て自然に全黨を左右するの實權を握るに在るのみ」に白丸傍点]、大隈伯にして果して憲政黨を同化するの力量あらむか、必ずしも進歩自由兩派の舊形依然たるを憂へず※[#白ゴマ、1−3−29]必ずしも兩派の嫉妬軋轢熾んなるを憂へず※[#白ゴマ、1−3−29]必らずしも異論群疑の紛々囂々たるを憂へず※[#白ゴマ、1−3−29]爭ひは益々大なる可し[#「爭ひは益々大なる可し」に白丸傍点]、議論は益々騷然たる可し[#「議論は益々騷然たる可し」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]同化力ある人物は必らず之を統一せむ[#「同化力ある人物は必らず之を統一せむ」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]斯くの如くにして統一せられたる政黨は[#「斯くの如くにして統一せられたる政黨は」に白丸傍点]、始めて眞個の力量ある首領を發見せむ[#「始めて眞個の力量ある首領を發見せむ」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]されど同化の前には淘汰を必要とす※[#白ゴマ、1−3−29]漫に大食すれば必らず胃病を生ずるを以てなり※[#白ゴマ、1−3−29]大隈伯の同化力を以てすと雖も、豈悉く憲政黨を同化すべけむや※[#白ゴマ、1−3−29]之れを同化する能はずして唯だ一時の姑息を事とするときは、堅實なる政黨内閣は終に見る可からず※[#白ゴマ、1−3−29]大隈内閣は遂に土崩瓦解せざる可からず、知らず大隈伯は如何にして目下の問題を解釋せむとする乎。(三十一年八月)
人民の代表者
興國の機運に乘じて、露國征伐を斷行したる現内閣は、今や國民の全後援を集中して、徐ろに未來の成功を望みて前進しつゝあり。特に總理大臣桂伯と直接に和戰の票決を爲したる外務大臣小村男とは[#「特に總理大臣桂伯と直接に和戰の票決を爲したる外務大臣小村男とは」に傍点]、唯だ此の一擧に由りて[#「唯だ此の一擧に由りて」に傍点]、遽かに古今無雙の英雄となりたるものゝ如し[#「遽かに古今無雙の英雄となりたるものゝ如し」に傍点]。然れども彼等は[#「然れども彼等は」に白丸傍点]、其の展開したる大舞臺の役者としては餘りに陰氣にして[#「其の展開したる大舞臺の役者としては餘りに陰氣にして」に白丸傍点]、且つ餘りに沈欝なるが爲に[#「且つ餘りに沈欝なるが爲に」に白丸傍点]、世界は彼等以外に更に實力ある人物の國民を指導するものあるを信ぜり[#「世界は彼等以外に更に實力ある人物の國民を指導するものあるを信ぜり」に白丸傍点]。而して伊藤侯の如きは今日に於ても亦最も世界の注目を惹ける日本代表者の一人たるは疑ふ可からず[#「而して伊藤侯の如きは今日に於ても亦最も世界の注目を惹ける日本代表者の一人たるは疑ふ可からず」に白丸傍点]。事實に於ても、伊藤侯が現内閣の後見職たる威信を有し、隨つて重大なる問題に對して常に勢力ある發言權を行ひつゝあるがゆゑに、總理大臣桂伯よりも、外務大臣小村男よりも、侯爵伊藤博文といへる名は、今尚ほ日本を談ずる外人の口頭より之れを逸せざるを見る。
然れども余は茲に大隈伯[#「大隈伯」に丸傍点]を紹介するの亦必らずしも無意義ならざるを思ふ。何となれば桂伯を政府の代表者とせば[#「何となれば桂伯を政府の代表者とせば」に白三角傍点]、若し又た伊藤侯を帝國の代表者とせば[#「若し又た伊藤侯を帝國の代表者とせば」に白三角傍点]、大隈伯は人民の代表者といふべき模範的人物なればなり[#「大隈伯は人民の代表者といふべき模範的人物なればなり」に白三角傍点]。伯は憲政本黨の首領なり、現内閣に對しては當面の政敵たると共に、民間に於ても固より多數の反對黨に依て圍繞せらる。而も其統率せる政黨は、未だ議會の過半數をも占むる能はざるを以て、此の點よりいへば、伯を稱して人民の代表者と爲すべからざるに似たり。唯だ伯の最近生涯に於て現はれたる行動は[#「唯だ伯の最近生涯に於て現はれたる行動は」に傍点]、次第に政黨首領たるの範圍を脱して[#「次第に政黨首領たるの範圍を脱して」に傍点]、寧ろ人民の代表者たる位地に接近せむとするの傾向あるを知るざる可からず[#「寧ろ人民の代表者たる位地に接近せむとするの傾向あるを知るざる可からず」に傍点]。
顧ふに政黨の信用未だ高からざる日本の如き國に在ては、政黨の首領たるものゝ社會的境遇は、頗る窮屈にして自由ならざるものなり。彼れは政權爭奪の外、何等の目的を有せずと認めらるゝがゆゑに、政治上の關係なき社會の各階級は、動もすれば彼れと相觸著せむことを避くるのみならず、彼れ自身も亦自然に之れと相隔離せざるを得ざるに至る。板垣伯の如き即ち其一人なり。自由黨の全盛時代に於ては、板垣伯といへば恰も日本人民の崇拜せる自由の化身の如く見えたれども、其の一旦黨籍を去りて在野の一個人となるや、伯の存在は忽ち國民の記憶より去りたるに非ずや。之れに反して大隈伯は[#「之れに反して大隈伯は」に白丸傍点]、明治十四年改進黨を組織してより[#「明治十四年改進黨を組織してより」に白丸傍点]、二十餘年間一日の如く政黨と旅進旅退したるに拘らず[#「二十餘年間一日の如く政黨と旅進旅退したるに拘らず」に白丸傍点]、其の社會的境遇は[#「其の社會的境遇は」に白丸傍点]、曾て之れが爲めに檢束せられずして[#「曾て之れが爲めに檢束せられずして」に白丸傍点]、其の住居せる早稻田の邸宅は[#「其の住居せる早稻田の邸宅は」に白丸傍点]、殆ど東京社交の中心たり[#「殆ど東京社交の中心たり」に白丸傍点]。伯の門戸は常に開放せられたり[#「伯の門戸は常に開放せられたり」に白丸傍点]。伯と社會各階級との交渉は間斷なく繼續せられたり[#「伯と社會各階級との交渉は間斷なく繼續せられたり」に白丸傍点]。伯は政黨の首領たる故を以て毫も其の社會的境遇の寂寞を感ぜざるなり[#「伯は政黨の首領たる故を以て毫も其の社會的境遇の寂寞を感ぜざるなり」に白丸傍点]。
伯が他の政黨政治家と其の生涯を異にする所以は、蓋し一は其の理想の同じからざるに由れり。凡そ黨派政治家は、大抵政治を狹義に解釋せり。彼等は政治を以て一種の專門技術と爲し、政治團體を以て特別なる社會の一階級と爲し、其の極端なる個人主義を抱けるものに在ては、社會の進歩と政治の進歩とは殆んど相關せざるものゝ如くに信ずるものなきにあらず。然るに大隈伯は、絶對的政治萬能主義にして、社會に於ける一切の改良及び進歩は[#「社會に於ける一切の改良及び進歩は」に二重丸傍点]、唯だ善政を行ふに依て之れを庶幾し得べしと信ぜり[#「唯だ善政を行ふに依て之れを庶幾し得べしと信ぜり」に二重丸傍点]。出世間的なる宗教すらも、大隈伯の見る所にては、亦政權の援助を借りて始めて其の健全なる發達を期し得べきものゝ如し。其の理想は斯くの如くなるがゆゑに、伯は勉めて社會の各階級と交渉し[#「伯は勉めて社會の各階級と交渉し」に白丸傍点]、之れをして政治と同化せしめずむば止まざらむとせり[#「之れをして政治と同化せしめずむば止まざらむとせり」に白丸傍点]。若し政治家をして一種の專門技術家たらしめば、伯の政治に於ける趣味は必らず索然として消滅せむ。何となれば伯の頭腦は總合的にして個人的ならざればな
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