洋的[#「西洋的」に白丸傍点]なると謂ふ可し。
伊藤侯の銅臭なくして艶聞ある[#「銅臭なくして艶聞ある」に白丸傍点]、大隈伯の艶聞なくして銅臭ある[#「艶聞なくして銅臭ある」に白丸傍点]、世之れを稱して好個の一對と爲す※[#白ゴマ、1−3−29]然れども財を好て私徳を傷るに至らずむば、未だ之れを以て大隈伯を譏る可からず※[#白ゴマ、1−3−29]色を好て公徳を紊さずむば、未だ之れを以て伊藤侯を累はすに足らず※[#白ゴマ、1−3−29]况んや大隈伯の財に於ける、善く積て善く散ずるの道に依り、伊藤侯の色に於ける、是れ英雄懷を遣るの餘戯に過ぎざる可きをや※[#白ゴマ、1−3−29]之れを聞く、前年伊藤侯の邸に舞踏會あるや、偶々醜聲外に傳りて、都下の新聞日として侯を議せざるなし※[#白ゴマ、1−3−29]人あり侯に勸むるに新聞記事の取消を以てす※[#白ゴマ、1−3−29]侯笑つて曰く、事の公徳に關するものは予固より之れを不問に附する能はず[#「事の公徳に關するものは予固より之れを不問に附する能はず」に白丸傍点]、區々一身上の誹毀何ぞ意に挾むに足らんやと[#「區々一身上の誹毀何ぞ意に挾むに足らんやと」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯の磊落なる洵に斯くの如し、是れ其の割合に世の憎疾を受けざる所以なり※[#白ゴマ、1−3−29]獨り大隈伯は、其の貨殖に巧みに經濟に長ずるを以て、人或は伯の平生を疑ひ、奸商と結托して往々私利を謀るものと爲す、是れ亦思はざるのみ※[#白ゴマ、1−3−29]世には其の言を孔孟に借て盜跖の行あるもの少なからず※[#白ゴマ、1−3−29]伯や固より清貧を裝ふの僞善家を學ぶ能はずと雖も[#「伯や固より清貧を裝ふの僞善家を學ぶ能はずと雖も」に白丸傍点]、其の决して黄金崇拜の宗徒たらざるは[#「其の决して黄金崇拜の宗徒たらざるは」に白丸傍点]、伯が親近するものゝ反つて廉潔の士多きを以て之れを知る可し[#「伯が親近するものゝ反つて廉潔の士多きを以て之れを知る可し」に白丸傍点]。
伊藤侯は信仰を有せず[#「伊藤侯は信仰を有せず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]若し之れありとせば唯だ運命に對する信仰あるのみ[#「若し之れありとせば唯だ運命に對する信仰あるのみ」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]故に侯は屡々高島嘉右衞門をして自家の吉凶を卜せしむ※[#白ゴマ、1−3−29]大隈伯は宗教信者に非ず[#「大隈伯は宗教信者に非ず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]然れども一種敬虔の情凛乎として眉目の間に閃くは以て伯が運命の外別に自ら立つ所あるを見るに足る[#「然れども一種敬虔の情凛乎として眉目の間に閃くは以て伯が運命の外別に自ら立つ所あるを見るに足る」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]蓋し伊藤侯の屡々失敗して毎に之れが犧牲と爲らざるは殆ど人生の奇蹟にして、大隈伯の屡々失敗して飽くまで其の自信を枉げざるは猶ほ献身的宗教家の如し※[#白ゴマ、1−3−29]故に伊藤侯は得意の日に驕色あり※[#白ゴマ、1−3−29]大隈伯は得失を以て喜憂せず。伊藤侯は英雄を尚び[#「伊藤侯は英雄を尚び」に白丸傍点]、大隈伯は功業を尚ぶ[#「大隈伯は功業を尚ぶ」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]夫れ英雄を尚ぶものは人の又己れを英雄視せんことを求む[#「夫れ英雄を尚ぶものは人の又己れを英雄視せんことを求む」に白丸傍点]、故に伊藤侯は外に向て英雄らしき詩を作り[#「故に伊藤侯は外に向て英雄らしき詩を作り」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]内に向て伊藤崇拜の隷屬を作る[#「内に向て伊藤崇拜の隷屬を作る」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]夫れ功業を尚ぶものは唯だ自家の經綸抱負を布かんことを望む[#「夫れ功業を尚ぶものは唯だ自家の經綸抱負を布かんことを望む」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]故に大隈伯は必ずしも英雄を畏れず[#「故に大隈伯は必ずしも英雄を畏れず」に白丸傍点]、必ずしも歴史上の人物に感服せず[#「必ずしも歴史上の人物に感服せず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]其の古今を呑吐し、天下を小とするの概あるは蓋し之れが爲めなり。
個人としての伊藤侯と大隈伯とは夫れ斯の如し※[#白ゴマ、1−3−29]約して之れをいへば、伊藤侯は太平時代の英雄[#「太平時代の英雄」に白丸傍点]にして、大隈伯は亂世時代の巨人なり[#「亂世時代の巨人なり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]大隈伯の隆準豺目にして唇端の緊合せる、自然に難を排し紛を釋くの膽智あるを示し、伊藤侯の象眼豐面にして垂髯の鬆疎たる、自然に無事を喜び恬※[#「(冫+臣+犯のつくり)/れんが」、第3水準1−87−58]を好むの風度あるを見る※[#白
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