ゴマ、1−3−29]又以て此の二大政治家の個性を諒す可し。(廿九年七月)

     伊藤侯の現在未來

      藩閥控制
 嚮に伊藤侯が、自ら骸骨を乞ふて大隈板垣兩伯を奏薦し、以て内閣開放の英斷を行ふや、藩閥家は侯を目して不忠不義の臣と爲し、極力其擧動を詬罵するに反して、侯の政敵は寧ろ侯の英斷を賞揚し、或は侯を以て英國の名相ロペルトピールに比するものあり※[#白ゴマ、1−3−29]或は侯の内閣開放は、恰も徳川慶喜の政權奉還に似たる千古の快事なりといふものあり※[#白ゴマ、1−3−29]中には其擧動の意表なるに驚きて、反つて侯の心事を疑ふもの亦之れなきに非ず※[#白ゴマ、1−3−29]既にして侯は遽かに遊清の擧あり、詩人及び記室を携へ、輕裝飄然として西行するや、世間復た侯の未來をいふもの紛々として起る※[#白ゴマ、1−3−29]或は曰く、是れ侯が永訣を政界に告げて老後の風月を樂むなりと※[#白ゴマ、1−3−29]或は曰く、是れ卷土重來の隱謀を蓄へ、暫らく韜晦して風雲を待つなりと※[#白ゴマ、1−3−29]或は曰く、是れ大隈板垣の兩伯をして苦がき經驗を甞めしむる爲なりと※[#白ゴマ、1−3−29]されど余を以て侯を視るに、侯の退隱は[#「侯の退隱は」に二重丸傍点]、舊勢力と分離して[#「舊勢力と分離して」に二重丸傍点]、將に來らむとする新勢力と統合せむが爲めのみ[#「將に來らむとする新勢力と統合せむが爲めのみ」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯は善く此の過渡の時局を處したるのみ[#「侯は善く此の過渡の時局を處したるのみ」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]豈他あらむや[#「豈他あらむや」に二重丸傍点]。
 舊勢力とは何ぞや、藩閥[#「藩閥」に丸傍点]是れなり※[#白ゴマ、1−3−29]新勢力とは何ぞや、政黨[#「政黨」に丸傍点]是れなり※[#白ゴマ、1−3−29]初め憲政黨の成立するや、侯は三策を建てゝ藩閥の元老に謀る※[#白ゴマ、1−3−29]上策に曰く内閣を維持すると共に[#「内閣を維持すると共に」に傍点]、別に政府黨を作りて憲政黨に當らむ[#「別に政府黨を作りて憲政黨に當らむ」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]中策に曰く若し上策を非なりとせば[#「若し上策を非なりとせば」に傍点]、侯は自ら野に下りて政府黨を作り[#「侯は自ら野に下りて政府黨を作り」に傍点]、以て内閣を援けむと[#「以て内閣を援けむと」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]下策に曰く、二策共に非なりとせば[#「二策共に非なりとせば」に傍点]、斷然内閣を擧げて大隈板垣の兩伯に與へむと[#「斷然内閣を擧げて大隈板垣の兩伯に與へむと」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]而して上中二策は終に行はれずして事※[#白ゴマ、1−3−29]下策に決す※[#白ゴマ、1−3−29]是れ寧ろ侯の豫期する所にして[#「是れ寧ろ侯の豫期する所にして」に白丸傍点]、又侯の目的なり[#「又侯の目的なり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]蓋し政黨は一夜作りの産物に非るは、侯の明固より之れを知るのみならず、侯は元來政黨の歴史を有する政治家に非るに於て、自ら新政黨を作りて大隈板垣の爲す所を學ぶは、恐らくは侯の本意に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]侯は勢力を自製するの人に非ずして[#「侯は勢力を自製するの人に非ずして」に白丸傍点]、之れを發見し[#「之れを發見し」に白丸傍点]、之れを利用するの智略ある人なればなり[#「之れを利用するの智略ある人なればなり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]故に侯が内閣開放を斷行したるは[#「故に侯が内閣開放を斷行したるは」に白丸傍点]、是れ實に今日を以て舊勢力と分離するの好機會なりと信じたるに由れり[#「是れ實に今日を以て舊勢力と分離するの好機會なりと信じたるに由れり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]政黨組織の策行はれざりしが爲めには非らじ[#「政黨組織の策行はれざりしが爲めには非らじ」に白丸傍点]。
 夫れ藩閥は三十年間我政界の主動力たり※[#白ゴマ、1−3−29]殆ど專制的性質を有せる一大勢力たり※[#白ゴマ、1−3−29]此勢力を利用するものは順境に立ち[#「此勢力を利用するものは順境に立ち」に白丸傍点]、之れに反對するものは[#「之れに反對するものは」に白丸傍点]、皆逆境に陷る[#「皆逆境に陷る」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]是れ侯が從來藩閥と結合して[#「是れ侯が從來藩閥と結合して」に白丸傍点]、久しく國民と爭ひたる所以なり[#「久しく國民と爭ひたる所以なり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]されど侯は決して藩閥の代表者に非ず[#「されど侯は決して藩閥の代表者に非ず」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1
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