條件と爲すを趣旨とするや否やに在り」に白丸傍点]。而して伊藤侯は此の點に於て何の言ふ所なく、自由黨總務委員の陳辯亦此の意義を明解する能はず。
其の政黨と國家との關係を説ては曰く、凡そ政黨の國家に對するや、其の全力を擧げ、一意公に奉ずるを以て任とせざる可からず。凡そ行政を刷新して以て國運の隆興に伴はしめむとせば、一定の資格を設け、黨の内外を問ふことなく、博く適當の學識經驗を備ふる人才を收めざる可からず。黨員たるの故を以て地位を與ふるに能否を論ぜざる如きは斷じて戒めざる可からず。地方若くは團體利害の問題に至りては、亦一に公益を以て準と爲し、緩急を按じて之れが施設を決せざる可からず。或は郷黨の情實に泥み、或は當業の請託を受け、與ふるに黨援を以てするが如きは斷じて不可なりと。其の意專ら獵官收賄の行動を排斥するに存し、舊自由黨の如き最も中心忸怩たらざる可からず。而も其の總務委員の陳辯を見るに、反つて過を蔽ひ非を飾りて侯の訓戒を無視せむとするは又何の醜ぞ。其の官吏任用に對しては、資格限定の程度と方法は別問題なりと設辭して、尚ほ獵官の餘地を後日に留め其の收賄行動に對しては、此等弊竇は我黨の深く戒規したる所にして、今更之を一洗するの必要を感ぜず。之を以て暗に我黨を指すの言とするに至りては、己れを卑うして自ら疑ふの嫌あるを免かれずといひ、以て毫も自ら反省囘悟するの赤心を示さゞるは、伊藤侯亦恐らくは其の厚顏に驚きたる可きを信ぜむとす。最後に政黨の規律を説て曰く、政黨にして國民の指導たらむと欲せば、先づ自ら戒飭して紀律を明にし其の秩序を整へ、專ら奉公の誠を以て事に從はざる可からずと。是れ既成政黨の無紀律不秩序を咎め、此れより生じたる黨弊を革むるを趣旨としたるに在り。余は伊藤侯が主として此の趣意を實行せむことを望まざるを得ず。
綱領や約九個條にして、宣言の註脚といふ可く、其の外交に關しては、文明の政以て遠人を倚安せしめ法治國の名實を全からしめむことを努む可しといひ、其國防に關しては常に國力の發達と相伴行して、國權國利を充全ならしめむことを望むといひ、其の學政に關しては國民の品性を陶冶し、公私各々國家に對する負擔を分つに耐ゆるの懿徳良能を發達せしめ、以て國礎を牢くせむことを希ふといひ、其の實業に關しては、農商百工を奬め、航海貿易を盛にし、交通の利便を増し、國家をして經濟上生存の基礎を鞏からしめむことを欲すといふの事項稍々政綱らしきを見るのみ。而も是れ何人も異存なかる可き名辭《ステートメント》の排列にして、一黨の政綱としては、餘りに漠然にして殆ど要領を認むるに難し。されど余の政友會に期する所は[#「されど余の政友會に期する所は」に白丸傍点]、國家經綸の施設よりも[#「國家經綸の施設よりも」に白丸傍点]、寧ろ黨弊刷新に在り[#「寧ろ黨弊刷新に在り」に白丸傍点]。是れ伊藤侯の政友會を發起したる主要の目的亦此に存すればなり[#「是れ伊藤侯の政友會を發起したる主要の目的亦此に存すればなり」に白丸傍点]。但だ最も黨弊に浸潤せる舊自由黨を最大要素とせる政友會を率ゐて[#「但だ最も黨弊に浸潤せる舊自由黨を最大要素とせる政友會を率ゐて」に白丸傍点]、果して能く黨弊刷新の目的を達し得可しとする乎[#「果して能く黨弊刷新の目的を達し得可しとする乎」に白丸傍点]。是れ甚だ余の疑ふ所なり[#「是れ甚だ余の疑ふ所なり」に白丸傍点]。現に侯が田口卯吉氏に請ふに政友會に入らむことを以てするや、彼は侯に向て極度に腐敗せる舊自由黨を主力としたる政友會の、到底黨弊刷新を期し得可き謂れなきを論じて入會を謝絶したり。島田三郎氏の如きも亦彼れと同一なる觀察に依りて政友會と接近するを避けたり。清流の士の政友會に赴かざる所以は實に此れが爲めなり。
(三)創立の參謀
政友會の創立に與かれる參謀としては、先づ舊自由黨總務委員を以て重もなる人物と爲さざる可からず。されど伊藤侯の計畫は、勉めて各種の人物と各階級の代表者を網羅するに在り故に投票權の多少よりいへば、舊自由黨最も多數の創立委員を出だす可き筈なれども、十二人の創立委員中舊自由黨より擧げたるものは僅に四名の總務委員にして、其の餘は總べて舊自由黨以外の人物を指名したりき。
此等の創立委員中最も新らしき印象を世人に與へたる人物は、男爵本多政以氏[#「男爵本多政以氏」に丸傍点]と爲す。彼れは前田家の舊大老にして、維新前は五萬石を領したる加賀の名族なり。其の公人生涯に入りしは、今囘の政友會創立に與かれるを以て始めと爲すが故に、其の人物經歴共に未だ多く人に知られずと雖も、傳ふる所に依れば、彼は從來實業に從事して嘗て政治運動に關係したることなく、唯だ其の名望の高きと、其の風采の酷だ近衞公に肖たるものあるを以て、加賀の近衞公と稱せられたりとい
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