、1−3−29]是れ所謂る知つて言はざる大智者を學ぶに在る乎[#「是れ所謂る知つて言はざる大智者を學ぶに在る乎」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]將た彼は議論よりも實行を主とするを以て平生の務とするに由る乎[#「將た彼は議論よりも實行を主とするを以て平生の務とするに由る乎」に白丸傍点]。
 彼れ往時英國の某大學に在て法律を修む※[#白ゴマ、1−3−29]偶々試驗あり、教授課するに『英國憲法の眞相』といふの論題を以てす※[#白ゴマ、1−3−29]彼れ秒時に立案して、之れを教授に示す※[#白ゴマ、1−3−29]其文唯だ『英國憲法は世界無比の良憲法なり』との一句を記するのみ※[#白ゴマ、1−3−29]教授呆然、其餘りの無意義なるに驚き、之れを彼れに詰る※[#白ゴマ、1−3−29]彼れ曰く、先生の英國憲法を説く千言萬語の多きを以てすと雖、其要點は則ち此一句に外ならず※[#白ゴマ、1−3−29]何ぞ別に詳述するを須ゐむやと※[#白ゴマ、1−3−29]是れ一場の逸話に過ぎざるも、彼れの政治論は大抵此試驗答案の如く、曾て煩瑣なる理窟を捏ねずして、唯だ疎枝大葉の議論を爲す※[#白ゴマ、1−3−29]此を以て世間曾て彼れの學問あるを信ずるもの甚だ少なくして、寧ろ彼れを粗豪の一木強漢と思ふもの多かりき。
 顧ふに彼れが見掛によらぬ學者たるは、今や漸く多數の認識するの所となれりと雖も、其言動の毫も學者らしからざるは他なし、彼れは主我的意思を以て總べての問題を解釋し[#「彼れは主我的意思を以て總べての問題を解釋し」に白丸傍点]、我れに利なれば理窟を言ひ[#「我れに利なれば理窟を言ひ」に白丸傍点]、我れに不利なれば無理をも言ふの傾向あればなり[#「我れに不利なれば無理をも言ふの傾向あればなり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]其放膽不諱[#「其放膽不諱」に白丸傍点]、剛愎不遜の人に過ぐる所以のものは[#「剛愎不遜の人に過ぐる所以のものは」に白丸傍点]、亦豈主我的意思の最も發達したるが爲に非ずや[#「亦豈主我的意思の最も發達したるが爲に非ずや」に白丸傍点]、故に室内の人物としては[#「故に室内の人物としては」に二重丸傍点]、彼は眞理を研究するの讀書家たりと雖も[#「彼は眞理を研究するの讀書家たりと雖も」に二重丸傍点]、彼れの戸外に於ける言動は[#「彼れの戸外に於ける言動は」に二重丸傍点]、唯だ是れ一個主我的意思の強固なる人物を體現するのみ[#「唯だ是れ一個主我的意思の強固なる人物を體現するのみ」に二重丸傍点]。

      彼の去就は單純なり
 今や彼は一般の想像するが如き大運動なく、其擧動は頗る平和にして、僅に新聞記者を相手として無意義の評論を試みつゝあるのみ※[#白ゴマ、1−3−29]知らず彼は何の考案を有し、何の抱負を今後に行はむとする乎。吾人は妄りに彼れの心事を揣摩せざる可し※[#白ゴマ、1−3−29]されど吾人は一個の見地に依りて彼れの位地を觀察するの自由を有す※[#白ゴマ、1−3−29]此見地は彼れの未來に關せずして、彼れの現在の位地に關する見地なり※[#白ゴマ、1−3−29]曰く彼は現内閣の敵なる乎[#「彼は現内閣の敵なる乎」に丸傍点]、味方なる乎[#「味方なる乎」に丸傍点]と。此問題を解答するものは、彼れ自身に非ずして、恐くは現内閣ならむ※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば現内閣にして彼れに利なれば、彼は現内閣の維持を冀望す可ければなり。
 世間或は彼れを以て高島一派と結托するの意ありと傳ふものあれども、高島一派の現勢力は殆ど零位なり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れ豈之れと結托するの愚を爲さむや※[#白ゴマ、1−3−29]或は自由、進歩兩派以外、別に一政黨を組織して、大に他日の地を作る可しといふものあれども、彼れの根據は現在僅かに少數の關東派あるのみ※[#白ゴマ、1−3−29]彼れ豈之れを恃て有力の政黨を組織するを得むや※[#白ゴマ、1−3−29]或は彼れを以て專ら力を自由派の扶植に致し、以て大に進歩派と競爭せしめ、而して憲政黨を分裂せしめ、而して現内閣を破壞せしむ可しといふものあるのみならず、彼れ亦自ら自由進歩の分裂終に已む可からざるを説くと雖も、彼れを認めて熱心なる自由派と爲すは謬見なり[#「彼れを認めて熱心なる自由派と爲すは謬見なり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]彼れは自己を主とするの英雄[#「彼れは自己を主とするの英雄」に白丸傍点](?)にして[#「にして」に白丸傍点]、其眼中復た進歩派なく[#「其眼中復た進歩派なく」に白丸傍点]、自由派なし[#「自由派なし」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]曩きに彼れの米國公使に任ぜられて代議士を辭するや、其選擧區民に演説して曰く、余は自己の力に依りて公使と爲れり
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