らざる千古の格言を留めぬ[#「彼れは日本憲政史上に永久磨滅す可からざる千古の格言を留めぬ」に傍点]。如何に其の沈痛にして天來の音響を帶びたるかを記臆せよ[#「如何に其の沈痛にして天來の音響を帶びたるかを記臆せよ」に傍点]、曰く[#「曰く」に傍点]板垣死すとも自由は死せずと[#「板垣死すとも自由は死せずと」に丸傍点]、是れ實に國民的運動の大精神を代表したるものに非ずして何ぞや[#「是れ實に國民的運動の大精神を代表したるものに非ずして何ぞや」に傍点]。彼れの名は此の格言に依て萬世に感謝せらる可し[#「彼れの名は此の格言に依て萬世に感謝せらる可し」に傍点]。たとひ岐阜の遭難に死したりしとも[#「たとひ岐阜の遭難に死したりしとも」に傍点]、彼れに於て復た何の遺憾あらむ[#「彼れに於て復た何の遺憾あらむ」に傍点]。况むや生きて第一期の時代事業を完成し[#「况むや生きて第一期の時代事業を完成し」に傍点]、併せて其の當初の理想を實現したる政黨内閣をも[#「併せて其の當初の理想を實現したる政黨内閣をも」に傍点]、一たびは大隈伯と聯合して之れを組織したることあるをや[#「一たびは大隈伯と聯合して之れを組織したることあるをや」に傍点]。彼れは第一期の時代事業に竭くす可かりし精力を餘まして[#「彼れは第一期の時代事業に竭くす可かりし精力を餘まして」に傍点]、之れを第二期の事業にも使用したるがゆゑに[#「之れを第二期の事業にも使用したるがゆゑに」に傍点]、是れ所謂る強弩の末[#「是れ所謂る強弩の末」に傍点]、魯縞を穿たざるもの[#「魯縞を穿たざるもの」に傍点]。記者は寧ろ彼れが退隱の遲かりしを惜む[#「記者は寧ろ彼れが退隱の遲かりしを惜む」に傍点]。
 顧ふに舊自由黨は、彼れと與に産まれて、彼れと與に成長したるものなり。彼れ一旦悟る所あるや、何の惜氣もなく、無代價にて之れを伊藤侯に讓與したりき。是れ人情の忍び難しとする所なれども、彼れに在ては疑ひもなく明哲の處置たり。蓋し今の政治界に立つものは、皆權勢利祿を得むことを目的とし、此の目的を達するに最も都合善き首領を求めて之れに頼らむと欲するものに非るなし。而も彼れの位地及び人物は此の點に於て黨人の望を繋ぐに足らざるを如何せむや[#「而も彼れの位地及び人物は此の點に於て黨人の望を繋ぐに足らざるを如何せむや」に白丸傍点]。彼れが人情の忍び難きを忍びたるは、更に之れよりも一層忍び難きものあるを恐れたればなり。

      其三 社會改良
 圓卓を隔てゝ彼れと語れる記者は、如上の理由に依りて彼れの退隱に同情を表するを禁じ得ざりき。此に於てか彼れの社會事業は、又た滿腔の敬意を以て之れを迎へざること能はざりき。彼れは社會改良の必要なる所以を説て曰く、
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憲政の完美を謀らむとせば、社會の根柢を鞏固ならしめざる可からず。社會の公徳腐敗しては、獨り政治の健全ならむことを望むも難からずや。而して社會の公徳は、宗教家若くは道學先生の説教のみにて維持し得可きに非ざれば、先づ有形上の禮節作法より矯正し始むるを要す。是れ余が風俗改良に着手したる所以なり。
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彼れは※[#「女+尾」、第3水準1−15−81]々として順序正しく語り出だせり、彼れは風俗改良の手段としては、次に國民の音樂にも注意せざる可からずといひて、泰西の樂譜曲調を直譯したる學校音樂は、日本國民の趣味に適せざるがゆゑに之れを改良すべき必要ありと説きたり。彼れは憐れなる盲人の生活状態を進めむが爲に、盲人教育の必要ありと説きたり。彼れは鰥寡孤獨の救恤男女勞働者の保護は、共に國家の責任に屬する重要なる問題なるがゆゑに、前年内務大臣たりし時、既に屬僚に命じて調査せしめたることありと説きたり。彼れは之れを説きつゝ、或は瞑目して熟考する如く、或は眉を軒げ手を搖がして語氣を助けたりき。最後に彼れは最も興味ある佳語を以て、記者の傾聽を促がしたり。
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余を顧問としたる婦人同情會は女囚携帶乳兒保育會なるものを組織したり。是れ其の名の如く女囚の携帶乳兒を引取りて、之れを保育するを目的とする慈善事業なり。凡そ襁褓の乳兒にして[#「凡そ襁褓の乳兒にして」に傍点]、其の母の有罪なる爲めに[#「其の母の有罪なる爲めに」に傍点]、均しく獄中に伴はれて陰欝なる囚房の間に養育せらる[#「均しく獄中に伴はれて陰欝なる囚房の間に養育せらる」に傍点]、天下豈此に過ぐるの慘事あらむや[#「天下豈此に過ぐるの慘事あらむや」に傍点]、彼れ携帶乳兒の[#「彼れ携帶乳兒の」に傍点]、斯く獄舍の生活に慣るゝや[#「斯く獄舍の生活に慣るゝや」に傍点]、反つて普通兒童の活溌なる遊戯を喜ばずして[#「反つて普通兒童の活溌なる遊戯を喜ばずして」に傍点]、再び獄舍
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