是れ決して偶然の機會に於て善く一變し得可きものに非るなり※[#白ゴマ、1−3−29]故に若し大隈伯をして一大同化力を有するの政治家ならしめば、或は能く進歩自由の舊形を撤廢して之を混一するを得可しと雖も、否らずむば憲政黨は遠からずして分離し、現内閣も亦隨つて土崩瓦解の虞あるを免かれざらむ、知らず大隈伯は果して一大同化力を有する乎。
 政黨の首領に必要なる第一資質は[#「政黨の首領に必要なる第一資質は」に白丸傍点]、偉大なる同化力なり[#「偉大なる同化力なり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]厖大なる政黨をして勢力の統一を得せしむるは[#「厖大なる政黨をして勢力の統一を得せしむるは」に白丸傍点]、其黨員をして首領の意見に[#「其黨員をして首領の意見に」に白丸傍点]同化《アツシミレート》せしむるに在り[#「せしむるに在り」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]ジスレリーは英國保守黨の首領として、屡々内閣を組織したる大政治家なり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れ曾てダービー内閣の出納尚書たるや、其施設動もすれば保守主義に矛盾する所あり※[#白ゴマ、1−3−29]一保守黨員彼れに問ふに保守主義の如何なるものなるかを以てす、彼れ曰く、我れは即ち保守主義なりと[#「我れは即ち保守主義なりと」に丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]言太だ倨傲に似たりと雖も、彼れが同化力の偉大なる、初めは彼れを喜ばざるもの多かりしに拘らず、後皆終に彼れに同化せられて、ジスレリーの意見は總べて保守黨の信條と爲り[#「ジスレリーの意見は總べて保守黨の信條と爲り」に白丸傍点]、其曾て保守黨員に答へたる放言をして事實と爲らしめたりしに非ずや[#「其曾て保守黨員に答へたる放言をして事實と爲らしめたりしに非ずや」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]グラツドストンの英國進歩黨に於けるも亦然り※[#白ゴマ、1−3−29]グラツドストンの施設は、必らず悉く英國進歩黨の主義を條規としたるに非らざりしのみならず、進歩黨は反つて彼れの意見に服從したるもの多し、凡そ政黨は主義綱領に據つて進退すといふと雖も[#「凡そ政黨は主義綱領に據つて進退すといふと雖も」に白丸傍点]、事實に於ては[#「事實に於ては」に白丸傍点]、其主義綱領は大抵首領の製造したるものに非るは莫し[#「其主義綱領は大抵首領の製造したるものに非るは莫し」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]但だ同化力を有せざる人物一たび首領と爲れば[#「但だ同化力を有せざる人物一たび首領と爲れば」に白丸傍点]、其政黨をして到底統一ある行動あらしむるを得ざるのみ[#「其政黨をして到底統一ある行動あらしむるを得ざるのみ」に白丸傍点]。
 大隈伯は日本に於ける當今有數の大政治家なり※[#白ゴマ、1−3−29]されど其の政黨の首領として果して幾許の同化力を有するや※[#白ゴマ、1−3−29]其分量の大小多少は、實に現内閣の運命を決す可く、又實に伯と憲政黨との關係を解釋す可し※[#白ゴマ、1−3−29]人或は曰く、憲政黨は大隈伯の黨與に非ずして、自存獨立の政黨なりと※[#白ゴマ、1−3−29]されど大隈伯をして偉大の同化力あらしめば[#「されど大隈伯をして偉大の同化力あらしめば」に傍点]、憲政黨は終に大隈黨と爲らむ[#「憲政黨は終に大隈黨と爲らむ」に傍点]、憲政黨をして大隈黨たらしめずむば[#「憲政黨をして大隈黨たらしめずむば」に傍点]、現内閣は必らず瓦解す可く[#「現内閣は必らず瓦解す可く」に傍点]、憲政は必らず分裂す可し[#「憲政は必らず分裂す可し」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば[#「何となれば」に傍点]、首領專制行はれずむば[#「首領專制行はれずむば」に傍点]、黨派政治は到底行はれざればなり[#「黨派政治は到底行はれざればなり」に傍点]。
 顧ふに維新の元勳にして、直接に政黨に關係したる者は唯だ大隈板垣の兩伯あるのみ※[#白ゴマ、1−3−29]而して黨首として兩伯の人物を比較せば[#「而して黨首として兩伯の人物を比較せば」に傍点]、大隈伯稍々板垣伯に優れるものあり[#「大隈伯稍々板垣伯に優れるものあり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば[#「何となれば」に傍点]、大隈伯は板垣伯よりも同化力を有すること大なればなり[#「大隈伯は板垣伯よりも同化力を有すること大なればなり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]板垣伯の政黨扶植に盡力したるや到らずとせず※[#白ゴマ、1−3−29]其自由黨に總理たりしこと久しからずとせず※[#白ゴマ、1−3−29]而も自由黨は伯の故を以て必らずしも膨脹せざるのみならず、反つて次第に其黨勢を削減せり※[#白ゴマ、1−3−29]伯は曾て馬場辰猪[#「伯は曾て馬場辰猪」に傍点]、大石正
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