えず其効果の如何を監視して、立憲政治の健全なる發達を助けむとするものゝ如し。曾て屡々議會に現はれたる大臣責任問題に關しては、公は君主的立憲制の本義を固執して[#「公は君主的立憲制の本義を固執して」に白丸傍点]、英國流の責任論を排斥するに餘力を遺さざりき[#「英國流の責任論を排斥するに餘力を遺さざりき」に白丸傍点]。何となれば日本の内閣は帝室内閣にして、大臣は天皇に對して補弼の責に任ずと憲法に明記したればなり。然れども公は帝室内閣を廣義に解釋し[#「然れども公は帝室内閣を廣義に解釋し」に白丸傍点]、原則としては[#「原則としては」に白丸傍点]、政黨をして天皇の大權を侵犯せしむるを許さずと雖も[#「政黨をして天皇の大權を侵犯せしむるを許さずと雖も」に白丸傍点]、日本臣民は均しく文武官に任ぜらるゝの權利を與へられ[#「日本臣民は均しく文武官に任ぜらるゝの權利を與へられ」に白丸傍点]、又文武官の任免は[#「又文武官の任免は」に白丸傍点]、大權の發動に屬するものたる以上は[#「大權の發動に屬するものたる以上は」に白丸傍点]、政黨を以て内閣を組織せしむるも[#「政黨を以て内閣を組織せしむるも」に白丸傍点]、决して君主的立憲制と相悖らずと説けり[#「决して君主的立憲制と相悖らずと説けり」に白丸傍点]。是を以て公は大隈板垣兩伯を奏薦して内閣を組織せしめたることありしのみならず、自ら政友會を組織し、其の會員を率ゐて内閣を組織したることありき。要するに公が政友會を創立したるは[#「要するに公が政友會を創立したるは」に白三角傍点]、日本立憲政治史に一新紀元を劃するものなり[#「日本立憲政治史に一新紀元を劃するものなり」に白三角傍点]。
 公が憲法の効果を收めむが爲に、常に朝野の間に立ちて、憲法の活ける註解者[#「憲法の活ける註解者」に二重丸傍点]として働らき、今尚ほ働らきつゝあるは、憲法起草者たる公として避くべからざる責任を感ずるが故なるべし。今や憲法發布二十年期に際し、皇上特に憲法紀念館を公に下賜して、其の晩年の光榮を限りなからしめ給ふ。拜聞す此の建物は皇室の典範、帝國憲法、其他附屬法の議事所に充てられ、陛下日夕親臨せられたる御由緒ありと。然らば是れ實に憲法紀念館たると同時に[#「然らば是れ實に憲法紀念館たると同時に」に白三角傍点]、又公の偉勳を表彰する永遠の紀念たるべし[#「又公の偉勳を表彰する永遠の紀念たるべし」に白三角傍点]。(四十一年三月)

   伯爵 大隈重信

     現時の大隈伯

      理想的大隈内閣
 大隈伯は終始政黨内閣を主張して、曾て渝らざるの政治家なり。啻に之れを持論として主張したりしのみならず、亦自ら之れを組織して、滿腹の經綸を實施せむと欲したるや久し※[#白ゴマ、1−3−29]而も其容易に之れが目的を達する能はざりしは、時勢未だ政黨内閣に可ならざるものありしに由る※[#白ゴマ、1−3−29]故に時勢苟も政黨内閣に可ならむか[#「故に時勢苟も政黨内閣に可ならむか」に白丸傍点]、其第一次の内閣を組織するものゝ大隈伯たる可きは[#「其第一次の内閣を組織するものゝ大隈伯たる可きは」に白丸傍点]、殆ど十年以來の政治的信號にして[#「殆ど十年以來の政治的信號にして」に白丸傍点]、國民の聰慧なる部分は[#「國民の聰慧なる部分は」に白丸傍点]、大抵之れを默會して疑はざりしものたり[#「大抵之れを默會して疑はざりしものたり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]葢し木戸、大久保の死後、維新の元勳にして大宰相の器あるものは、唯だ伊藤侯と大隈伯あるのみ※[#白ゴマ、1−3−29]而して伊藤侯の藩閥に對する情縁の絶つ可からざるものあるや、侯の進歩的思想を以てするも、到底自ら政黨内閣を組織する能はざるは、自然の勢なるが故に、大隈伯を外にして、復た政黨内閣を組織し得るものなきは、亦殆ど確定の運命なりき。
 されど最初の理想的大隈内閣は[#「されど最初の理想的大隈内閣は」に白丸傍点]、現内閣とは大に其實質を異にするものなりき[#「現内閣とは大に其實質を異にするものなりき」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]現内閣は大隈伯を首相とすと雖も其實質よりいへば、大隈伯の内閣にも非らず、又板垣伯の内閣にも非ずして、異形の組織を有せる一種の聯合内閣のみ※[#白ゴマ、1−3−29]余は現内閣を稱して憲政黨の内閣と爲すの見に反對せず※[#白ゴマ、1−3−29]其閣員の多數が憲政黨に屬するを認むるに於て、單に陸海軍兩省の憲政黨以外に特立する故を以て、其主力の憲政黨に存するの事實を否認する能はざればなり※[#白ゴマ、1−3−29]されど憲政黨は果して一政黨たるの要資を具へたるものなりやと問はゞ[#「されど憲政黨は果して一政黨たるの要資を具へたるものなり
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