ッドにまず一撃をあたえて、花瓶も金魚鉢も吹き飛ばした。私は濡れ鼠となったが、およそ雨を凌げる衣類や蚊帳までかぶっているうちに、硝子の破れ目が板戸で塞がれ、まだ他の病室の被害で右往左往している廊下の足音を、難をのがれた私はこれはたいした嵐だと思って聴いていた。
日頃臥たきりの病人が駈足で他の病室へ避難する姿も見えた。「窓ぎわの者がいちばんひどいんですよ」と云う甲高い声もまじった。
二百十日という厄日が、古来の経験で恐れられていた実証が、あまりに如実だったので、夕方凪ぎ晴れてきた時には、その渦雲を浮べた空に私は半ば讃嘆したような感じを持った。濡れ鼠の被害も私の安静の心を掻きみだす程ではなかった。看護婦が、その日の夕方、私の濡れものをそとへ運び出し、あまりまごつきもせず寝工合よくベッドを整えなおしてくれたのも、この天変が程よくきりあげてくれた感謝であった。
怒る空はそう度々はなかった。殆ど四時の多くは底知れぬ穏顔の空であった。殊に青い空の盤上に白い雲が、いいようもないさまざまの形をあらわして、流れ漂うさまは、払拭された青一色の空よりも私の眼にはたのしかった。朝かげ夕かげの移りゆくさまも
前へ
次へ
全16ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鷹野 つぎ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング