鷹野つぎ

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)閾《しきい》まで

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)日光を遮断する、[#底本では句点、12−5]樺色の日覆が
−−

 窓というものが、これほどたのしいものとはまだ知らなかった。それも私が枕をならべて病んでいた私の少年を先立たせ、やがて一ケ月後同じこの病院内に転室した日以来のことである。
 私の病児と過した半年間は、母子とも枕があがらなかった。頭上に開いていた北窓には、窓の閾《しきい》まで日光を遮断する、[#底本では句点、12−5]樺色の日覆が来る日も来る日も拡げた蝙蝠の片羽のかたちで垂れさがっていた。殊に秋の末から冬にかけては、よくよく穏やかな日和でないと、北風をおそれて硝子障子さえもぴたりと閉《た》てきった。
 六畳の病室で母子の眼を向けるところと云っては、天井か足下の出入口かお互いの顔か、または反面の板壁しかなかった。お互いの顔を見合う日は最も気分のいい日で、私は病児の髪の伸びたのも苦にするほど何か楽しい母ごころに、不幸な濁流に抜手をきっ
次へ
全16ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鷹野 つぎ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング