熱い湯で顔や手首、腕を拭き清めた。
小谷さんは夜が明け放れると、また電灯のスイッチをパチンと閉め、私の寝具をきちんと正し、便器を清め、床を拭き、やがてくまなく調うた床で私に食事させ、さらにあと片づけするまで一刻も小止みなく、見る眼にも感に堪えるほどこまめに働いた。
叮、使徒小谷さん、私はかの女に見せぬ眼をうるませた。あなたはお仕合せですよ、小谷さんのような良い方に附いていただいて、とはたの人からも云われ、自分でもあちこちできつい附添婦におこられている病人の我儘話なども耳にいれて、小谷さんに附いてもらった仕合せを感ずるのであった。
お太鼓を胸高に結んだ小柄な小谷さんの後姿は初々しく、朝の挨拶にも、消灯して帰る挨拶にも両手を揃えて女学生のようなお辞儀をする小谷さんは、院長さんや医師たちの良家にも出入する行儀正しさが、身についていた。挙動が粗野で、口の利きかたも乱暴な、老いた頑くなの附添婦にさえ顔色を窺っている病人もあるのに、小谷さんには私は感謝もしきれないと思った。
「お母さんにはずっと小谷さんが附いていてくれて、よかったですね」
息子も娘も見舞に来た時折りには、これを云った。
「
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