け方にスコールが通つたのでかう凉しいのだとの話であつた。もうスコールが來るやうなところまで來たかとちよつと嬉しくなつた。
食堂へ出て見ると扇風機がぶんぶん廻り始めた。それに吹かれながら、好い氣持になる。
内地を離れてから五日目だが、もうすつかり夏の氣温だ。
長いズボンを穿いてゐるのが苦しくてならない、つひに今日よりゴルフパンツを引張り出して半ズボンの姿になる。
その日も暮れた。やがて六日目がやつて來た。誰の姿もすつかり夏の服裝である。中に一人、冬服で來た男があつた。いくら服を脱いで上はシャツ一枚になつてみても、長い冬のズボン下があるので、下からむんむん蒸す。苦しくて敵はんと朝から云つてゐたが、やがて晝飯の時にサロンへ出て來た彼の姿は俄然半ズボンになつてをつた。ところがその半ズボンの形が少しをかしい。「到頭半ズボンをどこかで手に入れて來たね」と云へば、彼は天井を向いて「わはつはつ」と笑ふ。傍に仲間がゐて、「先生到頭暑さに參つて、冬のズボンを膝の上でちよん切つたんですよ」と云つて、これ亦大きな聲で笑ふ。私も笑つた。この先生が冬ズボンに鋏を入れる時の顏付を想像してをかしくてたまらなか
前へ
次へ
全29ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐野 昌一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング